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  • 『タイムトラベラーズ』にないものねだり

    【注意:なるべくネタバレは避けますが物語のヒントになる可能性はあります】

     このゲーム、企画時点から監督のイシイジロウさんにある程度概要を聞いていて、インタラクティブノベルはきっと時間ものと親和性が高いはずだし、絶対面白くなるだろうと期待が高まっていた。
     しかし、いざプレイしてみるとどうも勝手に想像していたようなものとは違う。
     恐らくは親和性が高すぎるというか、そもそもインタラクティブノベルには「タイムトラベル」要素が含まれてしまっているわけで、時間ものテーマのストーリーをそのままゲームに落とし込んでも「タイムトラベル」感はあまりプラスされない、ということかもしれない。『428』や『街』と同じプレイ感では「タイムトラベル」というこの物語のキモとなる部分が軽く感じられてしまう、というか。
     具体的にどうすればよかったのかは、今はっきりとは分からない。でも何かもうちょっと方法があったんじゃないか、という思いだけはある。
     見慣れたタイムチャートの選択に一考あってもよかったような気もする。そこになにがしか「今自分は時間を越えているのだ(ゲームに内蔵された機能を使っているのではなく)」という「演出」があるだけで少し違ったかもしれない。「タイムトラベル」は無制限にはできず、TIMESTOP以外のバッドエンドがあってもよかったかもしれない(タイムチャートに行かず「GAMEOVER」と言われる。……それで結局タイムチャートに戻るのではあんまり意味がないのだが)。
     プレイヤーは記憶を持ってジャンプするのにキャラは記憶を保持していない、というずれも問題かもしれない。いっそのこと「自覚なきタイムトラベラー」ではなく「自覚のあるタイムトラベラー」(普通はそうだ)だった方がよかったのではないかという気もする(話そのものに相当修整が必要だろうけど)。先頃発売されたチュンソフトの某ゲームも実は時間ネタを扱っていたけれど、その辺りの工夫がなされていて「同じ時間を繰り返している感」が出ていた。

    『ひぐらしの鳴く頃に』というデジタルノベル(インタラクティブでもなく、ゲームでもない)は、インタラクティブ要素を排しつつなお、インタラクティブノベルの世界観というものを表現してみせた。映画『メメント』は、逆から語ることによって前行性健忘の世界を見せてくれた。一本道の映画や小説というものは、その気になれば様々な語り方ができるわけだ。
    『タイムトラベラーズ』は、基本的には正しい道を選択していけば一本のシナリオになるものであって、ゲームという形式でなければ語れない物語だったかというと、多分そうではない。アニメにしても映画にしてもきっと充分面白いものになることだろう。
     まさにその点が、この「ゲーム」に対する不満なのだけど……タイトルにも書いたように、分かってるんです、ないものねだりだということは。
     でも、こういうゲームをプレイすると逆に何か色々とやりたくなってしまうんだよね。自分で。
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