長文倉庫

  • 『おおかみこどもの雨と雪』雑感(ネタバレ)

    「気になった」ことを書き連ねていくので文句ばかりになりそうだけれど、すごく出来の悪い映画・アニメだと思っているわけではない。むしろ、『時をかける少女』『サマーウォーズ』同様キャラデザインは好きだし(貞本キャラが好き、ということだが)、風景も美しい。『サマーウォーズ』の声はひどかったと思うけど、今作はさすがの宮崎あおいを始め子供もなかなか。せめて脚本がもう少しこうだったらもっとよかったのにな、という文句が出るのも技術が一流だからのことです。

     1.あらすじみたいな前半
     さほど特別とも思えない暮らしをしている一女学生が「おおかみおとこ」という異種と出逢って恋に落ち、異種であると知りながらもその子供を作る――というあたりの気持ちも葛藤も、彼自身の成り立ちも、その突然の死までもが、何もかも駆け足のナレーションとイメージショットだけで語られてしまうのには正直唖然とした。(ナレーション多すぎ!)
     花の、女としての、母としての物語であるなら、これはない、と思った。
     多すぎるナレーションの主が花ではなく雪であることは「これはこどもの物語ですよ」という宣言だったのかもしれないが、それにしては前半が長く、その割に説明するべきことは何も説明してないという印象。「母から聞いた話を再構成した」というならもっとイメージショットとナレーションだけでよかったような気がする。雪が誰かに語っている場面でサンドイッチしてもよかった。

     2.理解できない設定
     そもそも普通狼男というのは狼でも人間でもない、まあ一種のハーフであって、ハーフと人間の子供ならクォーターじゃないのとか、「おおかみおとこ」は狼男とは違う別のものなんだとしても、人間との子供なんだから父親よりは人間の要素も受け継ぐんじゃないのとか、山のような疑問符が浮かぶ。
     しかもその父親でさえ都会で普通に暮らしていたというのに、人間に育てられたハーフ(クォーター?)の子供が都会で暮らせない理由はまったくないように思える。
    「『おおかみおとこ』『おおかみこども』というのは単なるメタファーに過ぎないのだから……」という人が大勢いそうだが、そういう人にはこう言いたい。「メタファーなんか犬に食わせとけ」と。
     おとぎ話だ、寓話だ、というなら純然たるおとぎ話を語っていればいいと思う。リアルな世界を舞台に、まるでリアルな悩みであるかのように田舎へ逃げたり、土から作って野菜を育てたりしなくてもいい。
     一方で「おおかみこども」という設定をリアルに持ち込んだことの面白さを利用しておきながら、ある部分以降を「メタファーですからその辺は……」と逃げるのだとしたら(監督自身は多分そんなこと言ってないと思うけど)ご都合主義と言われても仕方ない。
     特殊な設定であるならそれを観客が理解できなければ、彼らの悩みをちゃんと共有することも不可能だ。
     最後の、比較的感動的に見える雨の巣立ちにしたところで、あれが中心的なテーマだったのなら、最初からそのように、雨や雪の葛藤と二人の考え方の違い、対立を描いていればもっと効果のあるシーンになったことだろう。花の思想、雨の思想、そして雪の思想――そういうものはこの映画の中では何一つ描かれていない。まあ、「自然と人間」とか「動物と人間」なんていうのは、実際のところこの映画が描こうとしたものでもなんでもないのだろうから、仕方ないのかもしれないが。

     3.早すぎる巣立ち
     雨と別れるシーンで、ああこれは「子供は親が思っているより早く成長する」という話なんだな、ということを思い少し感じ入った。そして、いい母親は(父親も、だろうけど)ちょっとショックだとしてもそれを笑顔で送り出さなきゃいけないんだな、と。
     ネットで話題の某氏は「ダブルバインドを押しつける敵役の母親」という斬新な解釈をしていたが、さすがにこの監督がそんな人とは思えない。せいぜい「人間もおおかみもどっちでもいいのよ」と言いながら心の底では当然人間を選ぶものと信じて疑っていなかった、くらいのことだろう。雨があちらの世界を選んでしまったことは相当ショックだったに違いないのに、一瞬で立ち直ってあのように叫べる宮崎あおい……じゃなかった、花はなかなか肝の据わったお母さんだと思うよ。

     4.どうでもいいことだけど……
    「雪」、はともかく「雨」という名前には最後まで馴染めなかった。特に、沢で死にかけるシーン、森を探し回るシーン等、連呼、絶叫する場面が多いだけに違和感ありまくり。普通ならありそうな「名付け」の場面、どういう意味を込めたというエピソードもないので(雪は確か生まれた時雪が降ってたから、とかそんな理由。雨もそうか?)感動にも繋がらない。趣味の問題と言われればそれまでだが、もう少し違う選択はなかったんかなあ。

    【追記】
     あ、そうそう、もう一つだけ。嫌われるようなことしたかなと思って雪を追い回したあげく怪我をした草平。どうして誰も「嫌がる女の子を追い回したお前が悪い」って言わないの? なんであいつは反省の色もなく謝りもせず「知ってた」とかしれっと言えるの?
Copyright © Textt / GreenSpace