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  • 表現規制について


    2013年06月02日(日)~3日(月)にかけてのツイートまとめ
    *この頃、児童ポルノ法が成立するかどうかみたいなところで表現規制に関する結構な議論が飛び交っていた。その時ちょっとまとめて書いたもの。長年考えはほぼ同じ。


     今回児童ポルノ法の件についてあまり何も言う気が起きないのはやはり、前回の都条例の件があったにも関わらず石原都政を継承する猪瀬が当選したこと、安倍自民党のみならず維新の会のような連中が票を伸ばしたこと。ことは政治の問題と言うより世の中全体が全体主義化を望んでるのだから仕方ない。とは言っても黙ってるのもなんなので、他の人が余り着目しない論点から少しだけ。まず、フィクションの中でアニメ、コミックのみが対象とされている件。都条例においては建前上「ゾーニング」の話だったわけで、影響を受けやすい未成年から、比較的目に留まりやすいコミック等を隔離しようという意図には、一応の合理性はあった。あるゆる他のエロと同様、「大人になってから楽しめ」ということだ。しかし、「フィクション」の「単純所持の禁止」となるとそれはもう児童虐待とは何一つ関係のない話。目的のすり替えで、何一つ合理性はない。
     そして、あらゆる表現規制に共通して言えることだが、「運用に実効性がないどころか、かえって害悪をもたらすかもしれない」ことを規制派は理解していないということだ。文章にしろ絵にしろ、ある種の表現がある種の人間に影響を与えることはもちろんあるだろう。それは“強い”表現だ。表現者はみな“強い”表現をしようと格闘しているはずだ。あえて毒にも薬にもならない表現をしたいやつがいるか? 人の心を動かすということはその人に影響を与えるということだ。しかしながら“強い”表現がどのような影響を人に与えるか、実のところ表現者にも分からないのが実状だ。ある種の表現が性犯罪者を作りだすというのなら、その逆だって可能なはず。違うだろうか?
    「人は安きに流れるものだ」という反論があるかもしれない。しかしだとしても、「所詮人とはその程度の生き物だ」ということでしかない。創作物に罪があるのではなく、人自身のうちにある、ということだ。
     漫画家が、児童虐待の恐ろしさを訴えるため、大人が子供をレイプする話を描いたとしよう。その子のトラウマを描き、このようなことをなくしていかなければならない、と訴えるような作品だ。さてそういう作品は今後描けなくなるのだろうか、それとも例外的に許される?
    「検閲」「言葉狩り」というのは硬直的なものだから、実際の運用上、アウトになるに決まっている。そして実際問題、そのような作品であってもレイプシーンがあればそこに反応する人間はいるだろう。ある種の人は「おぞましい」と思い、別の人はそこに快楽を見いだすのは珍しい話ではない。
     “強い”表現の与える影響は分からない、というのはそういうことだ。表現者の意図とは正反対の働き方をする可能性だってあるのだ。
      ぼくは以前から、差別用語を単純に言葉狩りすることについては抵抗してきたつもりだ。この間まで連載していた小説で実は、ひどい韓国人差別表現を大量に書いた。極めて歪んだ差別意識を持った、サイコパスの登場人物の内心表現として書いたのだから大丈夫だろうと思ったのだが、あいにく編集が法務と相談した結果、やはりまずいという判断で、ほぼそのあたりの表現は削除することにした。それが主眼ではないのでそれ以上抵抗しなかったが、もやもやは残る。
     ぼくは単純な言葉狩りには絶対に反対だしとことん抵抗するつもりでいる。言葉狩りを許せば「差別する人間」も出せなくなるからだ。そんな馬鹿馬鹿しい話はない。ただ今回は言葉狩りというには分量の多いヘイトスピーチだった。殺人鬼の内心であるとしても、作者の意見と思う可能性はゼロではない。今回のことはあくまでも出版社の自主規制だし、それがどうしても嫌なら違う会社に原稿を持って行くなり自分で電子書籍を作るなりすればよいと思っているから、「表現の自由」という問題ではない。しかし法律がそういった規制をかけてくる、まして過去の作品や自分の蔵書まで検閲するとなると別だ。
     児童虐待や性犯罪は、差別や貧困や戦争と同様、「現実にあること」「人間がすること」であって、創作表現によって「生み出された」ものでもなんでもない。まず現実があって表現があるのだ。そして、表現にはそのような「現実」を悪くする力もあるけれど改善する力もある、そう思っている。そして残念ながら、誰しもに一律にいい影響を与える表現などというものは存在しないし、つまりはいい影響を与える表現と悪い影響を与える表現を区別することもできない。検閲というものが、何か社会や文化にいい結果をもたらすなんてことはありえない、ということだ。
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