秘密のメモリーメモルノフ、ドゥワー♫

  • 小学生のときのバスの中での記憶

    小学生のときのバスの中での記憶の、もうひとつの方は極めて鮮明だ。
    それはひとつの啓示だった。小学生にして、人生で二度目の啓示だった。

    「ぼくは30歳以上は生きられない」

    バスの通路の中央に立ち、座席の角を右手でつかみながら、見慣れた風景が前から後ろに流れていく中で、なぜかぼくはそう確信したのだった。今でもその感覚を鮮明に思い出すことができるのだから、まさにそれほどの確信だったのである。

    たぶんその少し前に、「詩人は短命だ」という命題を発見したからかもしれない。もちろん長生きの詩人も世の中にはたくさんいるのだろうが、その頃ぼくの知っている詩人は石川啄木や中原中也や宮沢賢治ぐらいで、たしかにみんな短命だった。そして、その頃のぼくは詩を書くのが好きだった。

    ぼくはとくに何になりたいというのがなかった。友達のゆうちゃんは、バスの運転手になりたいと言ってた。ぼくは、そもそも将来何になりたいと考えること自体が不思議でたまらなかった。ぼくは何かになるのだろうか。中学校にいって、高校にいって、大学にいって、そして何になるのだろう。やっぱりその後のことを想像しなさいという問いは、小学生の頭には難問だった。

    「血を吐いて死ぬに違いない」

    そうとしか考えようがなかった。
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