秘密のメモリーメモルノフ、ドゥワー♫

  • オイデくんが空手で鉄を割った記憶

    小学生のとき空手をやってるというガキ大将のオイデくんに目をかけてもらった。権力者をすばやく見つけ出してその傘下に入るという手段は虚弱児の僕が生きていく上で本能的に身につけた技だ。

    僕はオイデくんの機嫌をとろうと思って、ついつい僕も空手をやってると嘘をついてしまった。

    「なにー、お前も空手やってるのか。お前、何割った?」

    いきなり割ったものを聞くなんて、オイデくんほんとうに空手やってるんだろうかと一瞬疑ったりもしたが、疑ってみたところで何の得にもならないので保留することとし、僕が何を割ったかについて考えることにした。

    「ふつうは瓦とかを割るよね」と、ナンバー2のカガワくんが言った。
    「なにー、かわらー? かわらなんてめちゃくちゃやわいだろ」とオイデくんは声高く断言したので、カガワ君はてへへと笑ってごまかした。

    僕は何を割ったことにしたらいいだろう。カワラはやわいと言われたので、カワラと答えたらめちゃくちゃ馬鹿にされるだろう。だが、下手に頑丈なものをあげると、今度はそれがウソであることを見破られてしまうし、もしもそれがオイデくんでも割ったことのない硬いものであったなら、僕は即座に絶交されてしまうかもしれない。

    うーんうーん、あたりさわりのない、かつ現実味のある空手で割るものはないだろうか。

    これだけの思考を瞬時にめぐらせたあげく、実際には僕はとっさに答えたのである。僕は頭の回転だけは超小学生級だった。

    「たいしたことないけどスイカだよ、スイカ。こう、すぱっとね」

    オイデくんはにやっと笑った。どうやら作戦は成功だ。僕も空手をやっていると信じこませることに成功したあげく、彼のプライドも傷つけずにすんだようだ。

    「けっ、スイカかよ。しょうもねーなー。いいかあ、よく聞いとけよお。俺なんかなあ、鉄割ったんだぞ、鉄。鉄ってめちゃくちゃ硬いんだぞ」

    そのとき僕は、ひょっとしたらオイデくんは空手なんかやってないのかもしれないと思った。だけど、もしもほんとうだったらこれはもう絶対に勝てっこないので、僕はおとなしくそれを聞くことにした。

    「へえー、すごいねー」

    つづく
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