秘密のメモリーメモルノフ、ドゥワー♫
美樹子の記憶
小学校にバスで通ってた。
ランドセルの右側に定期入れをひもでぶらさげておくと、降りるときは車掌のおねえさんが勝手に確認してくれた。
不思議なことにこのバスの中での出来事は二つしか記憶にない。ひとつは定期券が切れていたので、バス賃を現金で払おうとしてあわてて小銭をぶちまけてしまったことだ。
拾い集めたけれどもどうしても10円玉が一個足らなかった。必死で探したけれど、ぼくひとりのためにこれ以上バスを待たせるわけにいかないと思ったので、あきらめて降りた。
翌日、クラスの人気者の美樹子ちゃんが怒ったような顔で「はい」とひとことだけ言って10円玉をぼくに差し出した。ぼくがバスを降りたあと、見つけてくれていたのだ。
え、ひょっとして拾っておいてくれたの?とぼくはすまさそうな顔をして受け取ったんだけど、その間じゅう美樹子ちゃんはずっと恐い顔をしていた。まるで、あんたのことが好きってわけじゃないんだからね、ぜったい誤解しないでちょうだいね、とでも言っているようにぼくは感じた。