子どもの頃、大人のくせになんて理不尽なやつなんだ、と思ったことが何度かある。だけど、子どもだから何も言い返せない。
中学三年生のとき、近所でけたたましくサイレンが鳴っていた。受験勉強に飽きていた僕は部屋を飛び出して消防車が集まっているあたりまで走って見にいった。
だけど、煙も炎も出ていないし、けが人もいないようだ。何が起きているのかはよくわからなかった。
うしろから酒臭そうなおっさんが寄ってきて、「ボクちゃん、何があったんだね」と聞いた。「よく分かりません」と答えると、そのおっさんは「ふーん。まあどうでもいいけど、ボクちゃんは頭の良いほうじゃないだろ、ヘヘ、おじさんはそういうことすぐ分かるんだ」といった。
僕の「よく分かりません」という答えが悪いのか、それとも野次馬になっていることを批判しているのか、よく分からなかったが、今になってみると後者だったのではないかという気がする。
僕は田舎の中学校から転校してきたばっかりだった。田舎ではずっと一番だったけれど、大都会に転校してきたので、きっと僕ぐらいの人はうようよいて、僕は平均的なところに落ち着くのだろうと思っていた。
ところが予想に反して、僕は転校先の中学校で、開学始まって依頼の秀才みたいなかんじで迎えられた。授業もむしろ田舎の方がすすんでいたぐらいである。
僕から大都会に対する不安が消え去り、ちょうど天狗になり始めたころでもあった。僕が頭の良いほうじゃないって? とんでもないことをいうおっさんだ。人をちらっと見ただけで。僕は来年には、かの有名な進学校に進んでいるに違いないのに。まったく人を見る目がないおっさんだ。
僕が初めて大人を軽蔑した瞬間だった。
その後、かの有名な進学校にすすんだ僕は、多くの秀才たちに埋もれて、文字通り普通の人になった。