今日は従姉の子どもと遊んだ。小学校二年生の女の子のエリナだ。
エリナの母、すなわち僕の従姉は僕と同い年で、やっぱり小学校二年生ぐらいのときにはよく一緒に遊んだものだ。でもあまり覚えていない。
「ねねね、じゃあクイズに答えて」エリナは、従姉が小学校二年生だったときとおんなじ顔で僕に命令する。僕はそのとき、そういえばエリナの母親も小学校二年生ぐらいのときには、よく僕に命令したなあ、と思い出していた。
「ねねね、じゃあ飼い犬ごっこするから、犬になって」
「え? 僕が犬に?」
「なんでしゃべるのよ。犬はしゃべらないのよ」
僕は仕方なく四つん這いになった。
「わんわんわん」
「まあ、かわいい犬、名前はなんていうのかしら?」
「な、名前?」
「犬はしゃべらないんだってば」
「あ、そうか。わ、わんわん」
「ねえ、なんて名前?」
小学生なりにも意地悪な女だと思った。
「わ、わんわん」
「じゃあねえ」と彼女は腕組みをして考えだした。「ジョンでしょ」
「わんわん」
「ジョンっていうのね?」
「わわわわわんわん!」
「ジョン!ジョン!」
「わん!わん!」
「ジョン、おすわり!」
「くぅーん」僕はおすわりをした。
「ねえ、今度は乗ってもいい?」
「わん?」
彼女は四つん這いの僕にまたがった。
「あっちへ連れてって」
「わおーん……」
「いつも首を傾けている虫はなに?」と、エリナはクイズを出題した。
「え?」僕はおよそ四十年前の記憶をたどるのに没頭していたのでエリナに注意を向けていなかった。
「おじさん、早く答えてよ」
「あー、わりいわりい。質問なんだっけ?」
「だからあ、いつも首を傾けている虫!」
「あり?」と、僕は首を傾けながら言った。
「ぎゃはははは」
「ねえ、飼い犬ごっこしたの覚えてる?」と、僕はエリナの母親に聞いた。
「覚えてない」
二時間のあいだ、僕はずっと子どもたちと話しっぱなしで、母親との会話はこれだけだった。
家に帰ってきてから、僕はカミさんに話した。
エリナと話しているとさ、時が40年ぐらい戻って、小学生のエリナの母親と話している感じがするね。
そうして僕はまた、あの忌まわしい飼い犬ごっこのことを思い出した。
でも、あれはけっこうあとから僕の脚色が入った記憶だったのかもしれない。
つまり、極端にいえば後からインプットされた記憶だ。
ブレードランナーに出てくるレプリカントたちのようにね。
カミさんは、ブレードランナーってハリソン・フォードがなんか気持ち悪い人たちを退治していくってだけの映画じゃないの?といった。
僕は反論したかったけど、そういわれればそうかもしれないと思って黙っていた。