秘密のメモリーメモルノフ、ドゥワー♫

  • 蘇生された記憶

    俺ひょっとしたら一度死にかけてさ、心肺蘇生かなんかされて生き返ったことがあるんじゃないかって心配してるんだ。もちろんそんなこと覚えちゃいないから勘違いってゆーか思い込みってゆーか考えすぎだよな。

    でもこの先死にかけることがあった日にゃあ、蘇生なんて余計なことはしてもらいたくないね。そんときゃあ潔く死なせて欲しいよ、まじで。極端な話、救急とか移植とかこの世にいらねえと思ってるよ。人間なんてのはだなあ、いい機会だ、この際死んでおこうとかいってさっさと死ぬのが一番いかしてんのよ。

    あ、別に怒ったっていいよ。怒るのはあんたの勝手だし。それにあんたたちはあんたたちで、そうやって命にしがみついていつまでも生きてればいいよ、俺はぜんぜん構わないんだからね。だから勝手に頑張ってておくれよ。ただし俺だけは勝手に助けないように気をつけてくれよ。

    たとえばさ、こんなに頼んでんのに、あんたが勝手に俺の命を助けたとするだろ。そしたら俺はあんたになんていうと思う? 何で助けたって怒ると思うかい? おいおい、俺はそこまでひとでなしじゃないぜ。

    たぶん、どうもありがとう、感謝の言葉も見つかりません、って泣きながら言うぜ。自分のことだから分かるのさ。たぶんじゃなくて間違いねえよ。そしてさ、せっかく助けてもらった命だから、これから大事にします、一生懸命生きますとか言うんだ。

    そう、きっと俺はそんなポジティブで感動的な人間に生まれ変わっちまうに違いねえんだ、蘇生なんかされたらよ。

    俺はよお、そんなポジティブで感動的な俺なんか、大っキライなんだよ。そんな俺はもう俺じゃあないんだ。ぜったいそんなふうに生まれ変わりたくない。

    だから助けないでくれっていってんだ。分かるだろ? 

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