メモ
赤瀬川原平・尾辻克彦論メモ (1)小説の生まれる場所
前衛芸術家として多数のエッセイを書いていた赤瀬川原平が、
小説家・尾辻克彦になるには「胡桃子」という人物の登場が不可欠だった。
胡桃子は主人公の娘であり、話し相手である。
作者によく似た主人公が親しい相手と一対一の対話を続けるというのは、
尾辻克彦の小説の基本的な形である。
胡桃子がいないときは「美学校の生徒」と話している。
実際に会って話すこともあるが、電話が多い。
社会学者吉見俊哉のいう、
(「用件電話」ではない)「おしゃべり電話」だ。
『カメラが欲しい』の文庫解説によれば、
赤瀬川原平は美学校の生徒とカメラについて長電話していたらしい。
新聞連載小説『ゼロ発信』が、
電話の場面から書き始められていることも思い出されたい。
作家論として大事なことは、
電話のおしゃべり以外のおしゃべりも電話的に書かれているということだ。
つまり、小説の描写が話し相手の声以外の身体性を捨象しているのだ。
尾辻克彦の小説は、親密な「おしゃべり電話」の空間に生まれる。