だが、その男は固まったように動くことができないでいた。
一点を見つめたまま、凍りついたように静止している。
視線の先には整髪料から開放され、無造作にベッドに散る金の髪があった。
既視感に頭の奥の奥から何かが湧き上がってくる。
体とは反対に、思考が音を立てて急速に動いていく。
瞬きをするエネルギーさえも思考にまわして記憶を紐解いていく。
「ん…」
その時、光に当てられていたゼルの瞼がゆっくりと動いた。
途端サイファーは思考から帰還しびくりと体を震わせる。
顔に掛かる髪の間から、宝石のような青い瞳が、姿を現した。
何度か瞬きによってその姿を隠しながら、サイファーへと焦点を合わせようとしているようだった。
体を起こした為、光に透けた金の髪が目に掛かっている。
髪を下ろしたところを見るのは初めてだったと、その時に気付いた。
隙間が埋まる音が聞こえた。
みつけた
ずっと俺を見つめていた視線のあるじ
ガキの頃、俺の目を釘付けにした瞳のあるじ
「サイファー?」
不思議に思いながら、ようやく事態を受け入れだしたゼルが動き出す。
「なんでここに?……っやべっ!!」
途端にゼルが何かに気付いたようにベッドから起き上がった。
「報告書忘れてた!!」
わりぃわりぃと言いながらしばらく机や部屋を引っ掻き回していたが、突然思い出したように動きを止める。どうやらキスティスに預けていたらしい。
今だ衝撃から回復できず、固まっていたサイファーにも気付かないままに、ゼルは部屋から飛び出していった。
サイファーは、最後まで動けなかった。
以来、サイファーはゼルにいつも以上にちょっかいを掛ける様になった。
正確には、今だ自分の気持ちを持て余しているが故に、どう接していいか分からなかった。こんな気持ちは初めてだった。
何度か女性と関係を持ったことはあるし、恋愛未満ではあるが、リノアにも心を動かされたこともある。
だが、こんなに自分の根幹に触れるような、自身の心臓をわし掴んで引きちぎるような衝撃は初めてだった。
世間はこの気持ちをああ呼ぶのだろうが、サイファーは今だそれを自覚してはいなかった。
今までは、スコールを相手にすることで晴らしていたイライラが、今度は違うベクトルに向き始める。元々気の短い性格である。気持ちが思い通りに行かないことの苛立ちが、余計にサイファーを焦らせた。
今となってはSeeDでもあり指揮官でもあるスコールに相手をさせる訳にも行かず、サイファーは訓練施設で自分の苛立ちをぶつけるのが日課になっていた。
そんな鬱屈としたとある日。
月の高い、真夏の深夜。
持て余した気持ちをモンスター相手に散々思い知らせたサイファーは、額を伝う汗を拭うと、高ぶってしまった自身を静めるため、SeeD共同のシャワールームへと足を運んだ。ロッカールームに常備されている、タオルをひとつ掴むと、そのまま中へと足を進めた。
そうして再び硬直する男となる。
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