チキン調教師の朝は早い。

  • 小話続きです!

    「半年くらい前、学園祭でバンドやっただろ」

    「ああ、セルフィ主催のやつね」

    そう言って、カードを置く。レベルの高いカードだから、まだ私が優勢ね。
    今年は私、丁度任務が入ってて参加できなかったのよね。だから話にしか聞いたこと無かったのだけれど。

    「昨年のことは知らねえが、今年はよりパワーアップするとかなんとかでダンスを入れるとか言い出しやがってよ」

    さすがセルフィね。復帰したてのサイファーを巻き込めるのは凄いわ。きっと畏怖の対象だったサイファーを生徒達に馴染ませたかったのね。

    「で、俺とコイツがダンス担当になった」

    そう言って、サイファーはカードを置いた。

    「女のアンタにこんなこと言うのはなんだが…汗だくになって息を乱してるコイツはなかなかグッとくるもんがあってな」

    「なるほど、欲情した、ってことね」

    サイファーは肩をすくめるとそのまま話を続けた。

    「まあその時からだな意識しだしたのは。
    そっからは一緒に出かけたり、戦闘訓練したり、カードしたり…色々だ」

    「ゼルもあなたのことを好きだったって事よね?」

    「いや、あの野郎俺がモーション掛けてんのに全然気づきやしねえ」

    そう言って困ったように笑うサイファーは盤面からすっかり顔を上げていて、カードは後回しになっているようだ。意外と饒舌なのよね、彼。スコールとは正反対。

    「でも一緒に遊ぶって事は嫌いな訳じゃないのよね?」

    「親友だと思ってやがったぜ。信じられるか?『普段から悪い印象を持たれてた奴がこれまでの人物像を崩すような良い事をすると人に強く良い印象を与えちまう』…ゲイン効果ってやつだな」

    ゼルだったらあるかもしれないわね。最初は大嫌いだったアーヴァインの事、今では凄く大事に思ってるみたいだし。
    私はサイファーに同意の笑みを送ると、気になっていたもう一つのことを聞いてみた。
     
    「ねえ、何て口説いたの?」

    「なにぃ?」

    サイファーが眉根を寄せて困惑するのが見えた。

    「だって、『親友』と遊んでるだけじゃこうはならないでしょ?」

    そう言って、横のベッドでぐっすりと眠るゼルを見る。

    「別にそのまま言っただけだぜ」

    「そのままって?」

    「抱きたい。お前を抱きたい、ってよ」

    サイファーは真っ直ぐこちらを見てそう言ってのけた。
    その声色は当時を思い出しているからか、どこか熱がこもっていて、思わずドキリとしてしまう。

    「あなたって…意外とロマンチストよね。それで、ゼルは何て答えたの?」

    「ククク…なんて答えたと思う?」

    サイファーは、何かを思い出したかのように小さく笑いながら身を乗り出した。

    「さあ、分からないわ。いいぜ、とかかしら」

    「受けて立つぜ!だってよ」

    サイファーはゼルの口調を真似しながらそう言った。
    さっきまでのロマンチックな気持ちがどこかへ吹き飛んでいく。

    「ムードの欠片もないわね…決闘か何かと勘違いしてるのかしら」

    私の素っ気ない言い方が面白かったのか、それとも同じ事を思ったのか。
    サイファーは声を上げて笑った。

    「ノロケちゃって、妬けるわね。あーあ、私にも良い人いないかしら」

    「そういやあんたはその手の話聞かねえな」

    「『問題児』の相手で手一杯で、そんな暇なかったもの」

    「そりゃあ悪かったな」

    サイファーがそう言いながらカードを出してくる。悪いって思ってないでしょ、もう。

    「あんたこそ、どうやってセンセイに復帰したんだ?」

    こちらをチラリと見てそう言うと、ボードに目を落とした。

    「FCの子達が嘆願書を書いてくれたの。沢山の子が署名してくれて、本当に助かったわ」

    私はそう言うと、切り札のギルガメッシュのカードを置いて、サイファーの置いたカードをひっくり返す。
    サイファーはそうか、とだけ言って、ボードに集中している。手筋を読んでいるようだ。最近始めたばかりなのに凄く強いのは、きっと読みが上手いのね、彼。
    そういえば。

    「ねえ、急にカードをやりだしたのはどうして?凄い勢いでCC団を倒してたでしょ?」

    「さてな」

    サイファーはそっけなくそう返事をした。
    先ほどとは打って変わって、話に乗ってこない。
    触られたくない話題ってところかしら。

    「そういえば、最近ゼルもカードやってるわよね。……なるほど、スコールに張り合いたいわけね」

    「なにっ?何でそんな事が分かる。スコールは関係ねえ」

    サイファーは一瞬痛いところを突かれたという顔をして舌打ちをすると、そうしてそれを誤魔化すようにボードに向かって、そして慌ててカードを置いた。

    「ウフフ…私、元はアナタの担任よ。それにスコール研究家だもの。分かるわ」

    好きな子に良いとこ見せたい気持ちってあるわよね。相手がゼルの敬愛するスコールなら尚更ね。
    でも焦って置く場所を間違えたみたいね。そんなところに置いたら、ひっくり返されちゃうわよ?
    彼の心に付け込むみたいで悪いけど、私も負けられないの。ごめんなさいね。
    私は心の中で謝りながら、サイファーの置いたカードをひっくり返した。
    そうして満足してゆっくりと顔を上げてサイファーを見ると、なぜかニヤリと笑っている。
    やだ、なんなの。

    サイファーが、勿体ぶったようにカードを置いた。

    急いで盤面を見ると、サイファーの置いたカードはエレメンタルによって強固なカードへと変化していた。
    そうしてまわりの私のカードが次々にひっくり返される。
    そうして、私が最後に置くことのできる位置の周りには、私が今まで置いてきた高レベルのカードがサイファーの手駒として鎮座していた。

    詰み…ね。
    あーあ、引っかかっちゃった。
    私の負けね。

    最後のカードを置くと、私は負けを宣言した。



    部屋を出ようとドアを開いた私は、大切なことを思い出してサイファーを振り返った。

    「ああ、そうだ。カードキングのことは秘密にしてもらえないかしら」

    私の前の代からずっと、キングの存在は秘密にされてきた。
    キングに挑めるのは、特別に強いプレイヤーだけなのだ。
    この信念の強い男は、約束したならばその道は違えないはずだ。

    「いいだろう。その代わりあんたも俺達のことは秘密にしろ」

    サイファーはベッドに腰掛けながら、まだ眠りについているゼルを一瞥してそう言った。

    もちろん、彼らの秘密を口外するつもりはない。
    お互い頷きあって、私たちの密約は成された。
    私は負けて悔しいはずなのに、なんだか楽しい気持ちになってそのまま部屋を後にした。

    おわり





    サイファーとゼルだと、多分サイファーの方が色々上手(うわて)だと思うんですが、サイファーとキスティスだと、キスティスの方が上手のような気がします。劇中の『サイファー、がんばってね』の件とか大好きです。
    というわけでサイファーを舌戦でやりこめられるのは先生だけ!と思いまして恋バナさせてみました。
    この2人は、お互いの能力が高くて近いのですごくいい相棒になれそうな感じがします。
    今回はサイファーの口から、自分たちの馴れ初めを言わせるというパターンにチャレンジしてみました。
    会話が多くて凄く楽しかったです。
    次回からはまた長編にするつもりなので、良い息抜きになりました。


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