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サイファーは振り返らずに一直線に自分の部屋へと向かった。
俺は普段昼間には近寄りもしないサイファーに話しかけられた衝撃から、ほぼ無抵抗で連れ去られてしまった。
サイファーは部屋に着くなり、俺をベッドへ押し倒した。
まだ夕方で部屋の中は明るかった。
なのにサイファーはお構いなしなようで、俺のズボンを脱がせようと、ベルトを引き抜いている。
またあの強引な行為が始まるのか。
「な、なぁ…ヤるのかよ」
「…嫌なのか?」
勇気を出して聞いた一言は、サイファーのきつい睨みと共に返された。
セックスフレンドに対するそれが、俺の胸に突き刺さる。
俺はそれ以上何も言えずに、ただ黙ってサイファーに体を任せた。
揺すられる度に、快感と痛みが交互に押し寄せる。
夕日に照らされる赤く染まったサイファーが眩しい。
思った通り、ここ最近の強引な行為だった。
快感は確かに感じる。でも心がないと分かっている行為に、どうしてもノり切れない。心があるのは俺だけなのだ。
突き上げても中々イかない俺に、サイファー苛立ち始めた。
「テメエ集中してねえな!」
そう言って、体を起こして俺を睨んだ。
だがそう言われても、どうしたらいいのか分からない。
前は何もせずに感じられたのに。
心がないと気付いてしまったのだから、しょうがないのだ。
「こんな…こんな嫌がらせでセックスするのは…もうイヤなんだ」
ぽろりと口から声がこぼれた。
「セックスって好きなやつとするもんだろ」
言葉に出してみて、実感する。
俺達の行為にはそんな感情はないのだ。
「俺は…あんたを好きになりかけてる。だからもうやめてくれ。今ならまだ簡単に終われるから」
サイファーは無言で俺を見つめていた。
それを良いことに、俺は自分の気持ちを最後まで言い切った。
サイファーは動かなかった。
まるで固まってしまったように俺を見下ろしている。
驚くよな。只の都合の良いセフレが、いきなりそんな事言いだしたら。
俺は小さく苦笑すると、もう行為の続きはないとみて、サイファーの下から抜け出そうとした。
だがそれに感付いたサイファーが、急に俺の両腕をギュウと音がしそうなぐらい握りしめた。
顔は伏せられていてよく分からない。
怒ったのだろうか。
俺が何かを言おうか逡巡していると、サイファーからぼそりと声が聞こえた。
「畜生」
怒りを含んでいるようなその声色に、俺の心は震えた。
怒った声も好きだ。
そう思って、サイファーを静かに見つめた。
俺は自分からこの関係を終わらせたのだ。
きっとこれで最後だろうから、サイファーの怒号も余さず俺の思い出として心の中に
仕舞っておこう。
そう思って、サイファーの言葉を待った。
「あいつ等の言った通りなんて頭に来る」
サイファーは意味の分からない言葉をぶつぶつと呟いている。
俺には覚えがないことだから、おそらく独り言なのだろう。
「テメエもテメエだ!」
ぼんやりとサイファーを見上げていると、急に俺に対して声が投げつけられた。
「どんどんエロくなりやがって。鈍感野郎どころか淫乱野郎じゃねえか!このエロチキン野郎!」
そう俺に向かって強い視線を投げられた。
淫乱って俺のことか!?
そんな事言われて黙ってはいられない。
「な、なんだとテメエ!俺のどこが淫乱なんだよ!」
「いつも腰振ってやがるじゃねえか!しかもエロい顔しやがって!煽ってんじゃねえよ!」
「そんなの不可抗力だろ!あんただって一晩で何回もするくせに!その方がよっぽどイヤラシイじゃねえか!」
「何度もイかせたいと思っちまうんだから仕方ねえだろ!テメエがエロいのが悪い!」
「そうかよ悪かったな!じゃあ他のセフレでも見つけりゃあいいだろ!」
なんだかしんみりしていたはずなのに、俺達の本来の性分なのか言い合いになってしまった。
俺達はすっかりベッドの上で起きあがって向かい合い、今にも掴み掛からんという具合だ。
「何!?テメエ俺以外と寝やがったら承知しねえからな!」
サイファーが肩を怒らせながら俺を睨みつけている。
今、何て言った?
「あ、アンタには関係ねえだろ!」
「うるせえ!テメエは俺に惚れてんだろうが!なら大人しく俺と寝てろ!」
「だから!俺はもうセフレと寝るのは嫌なんだって!」
「じゃあ俺とつき合えばいいじゃねえか!」
もう言いたい放題の俺達にブレーキなんてきかなかった。
だからサイファーは簡単にそんな事を言い放ったんだ。
俺もムキになってサイファーの胸ぐらに掴み掛かる。
「そりゃそうだけどアンタ別に俺のこと何とも思ってないだろ!?」
「どいつもこいつもうるせえな!認めりゃいいんだろ!!思ってるよ畜生!テメエが他の奴といるとイライラすんだよ!だからテメエは俺と居ろ!それでいいな!」
サイファーは俺の腕を引っ剥がしながらそう叫んだ。
思わず俺は素っ頓狂声でサイファーへ応えてしまう。
「お、思ってんのかよ!」
サイファーは一瞬しまったという顔をしたけど、吹っ切れたように口を開いた。
「ああ、思ってるぜ。お前それで、どうだ?」
「ど、どうって…」
「だから、俺とつき合うのか?どうなんだ?」
そう言って、今度はぐいっと迫ってくる。
口元にはいつもの嫌な笑みが浮かんでいる。
「う、うそじゃないよな?」
俺はじり…と後退した。
サイファーに振り回されて、元のセフレに逆戻りは辛すぎる。
「嘘じゃねえよ」
だが、そう応えたサイファーに、先ほどの嫌な笑みはなかった。
初めて関係を持った時のような、真摯な眼差しがそこにはあった。
「…つき合う」
俺はそれだけをぼそりと伝えた。
真正面のサイファーの視線がたまらねえ。
行為の途中だった下半身に、ずくりと血液が集まる。
するとそっと顔を近づけて、俺の耳元でサイファーが囁くように声を発した。
「…ヤろうぜ」
甘く響くその言葉に、俺は陥落した。
つづく
二人の気持ちのまとめがなかなかうまくいかず難産でございました…。
サイファーに好きと言わせるのが難しくて何度も消しては書き消しては書きしてました…。
エロも入れない予定でしたが、勝手に二人が盛り上がっていってしまったので(キャラが勝手に動いてしまって)次回エロからになります。
今回で終わりと思ってましたが、もう少しだけおつき合い下さいませ~!
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拍手押して下さった方ありがとうございます!
おかげさまでやる気出ます!
少しでも楽しんでいただけていると嬉しいです~!
また遊びに来てやって下さい!