チキン調教師の朝は早い。

  • 小話更に更に続き

    ■■■


    ガーデンの食堂はやかましい。
    だからこんなにイライラするのか。
    どうなってんだ?俺がガーデンにいた頃より酷くなってるんじゃねえか?
    奥のテーブルの一団は特に酷い。男子生徒が集まってわいわいぎゃあぎゃあと賑やかなことこの上ねえ。妙にムカつくぜ。
    無視しようと試みるが、なぜか何度やっても頬杖を突いたまま、吸い込まれるようにそちら見てしまう。
    反対の手で握られたフォークは皿に突き立てられたままだ。

    「何を見てるんだ?」

    そう声を掛けて俺の向かいに腰を下ろしたのはスコールだった。
    俺のテーブルに来るなんてな。
    スコールらしからぬめずらしい行動に驚くが、極力顔に出さないよう努めた。

    「何の用だ」

    食事用のトレイも何も持たずに座ったところをみるに、ただ席が空いてなかっただけじゃないことは直ぐに分かった。

    「ゼルを見てたんだろ」

    スコールは前置きも何も無しに、そうハッキリと言い切った。

    「いきなり何なんだテメエ」

    覚えのない事を言われて苛立つ。
    改めてスコールに向き直ると、俺は声を荒立てた。

    「自覚がないのか?さっきから見ていたが、ずっとゼルを見てたぞ」

    そう言って、さっき俺が見ていた方を小さく指さす。
    釣られてそちらを見ると、さきほどからうるさく騒ぐ男子生徒達の中に、確かにゼルの姿があった。なぜ気付かなかったのだろう。いや、気付いていたが見ぬ振りをしていたのか。
    友人達と楽しげに食事をするその姿を見ると、先ほどまで感じていたイライラが更に激しくなる。

    「惚れてるのか?」

    スコールから信じられない一言が発せられた。
    俺は横を見ていた顔を一瞬でスコールに向け直して、反射的に声を荒げた。

    「気持ちわりぃ事言ってんじゃねえ!」

    なんで俺がチキン野郎なんかに惚れなきゃなんねえんだ。飛躍しすぎだろ。
    だが、スコールは全くひるまない。
    それどころか、更に追撃まで放ってくる。

    「そうか?あんたの好きそうなタイプだと思ったんだが」

    「なに?」

    予想外の回答に、目を細めて続きを促す。

    「あんた、明るくて、気が強くて、突っかかってくるようなタイプが好みなんだろ」

    なぜか心臓がドクリと鳴った。
    核心を突かれたと、瞬時に思ってしまった。

    「なんで…てめえがそんな事言えるんだ」

    だが、認められねえ。自分の気持ちさえもねじ伏せる。
    スコールはそう反論されることなど予想をしていたように、するりと口を開いた。

    「リノアとつき合ってたそうだからな。普段女子に見向きもしない”あんた”が」

    そうして、自分の発言が俺を責めていると思ったのだろう。
    「ああ、深い関係じゃなかったと聞いてるし、俺は気にしていないからな」と、片手を挙げて付け加えた。

    「……」

    こいつからリノアのことを言われるとは思ってなかった。(今つき合ってるのはコイツだ)
    確かにリノアの明るくて人懐っこい所は嫌いじゃなかった。俺に対しても怖れずズケズケと意見するところも、サッパリしていて気に入っていた。
    ズバリと言われてしまうと妙にばつが悪い。
    だが、すべてこいつの言うとおりだと認めるのは…癪だ。

    「別に…タイプじゃねえ。従順なやつの方がいいに決まってる」

    そう言って持っていたフォークを皿にほおりだした。
    もうとても食事をする気分にはなれない。
    口からでまかせを言った訳じゃない。つまりは…一般論だ。

    スコールは訝しい目をしてこちらを見たが、それ以上は何も言ってこなかった。
    だからこの話はこれで終わりだと思ったのだが。

    「ほんとに~?じゃあ何で風神とつき合わないの?」

    俺の後方から聞き覚えのある声が響いた。

    「アーヴァイン」

    スコールが、俺の後ろに目をやってそいつの名前を呼んだ。
    嫌な予感に自然と眉間に皺が寄っていく。
    アーヴァインはスコールに、面白そうな話してるね~と声を掛けると、僕も混ぜてよと言ってスコールの隣へと勝手に腰掛けた。
    そうして俺に視線を向ける。

    「あの子、どう見ても君のこと好きでしょ」

    「……」

    テメエ等はほんとに嫌なとこ攻撃して来やがるな。SeeDの鏡だぜ畜生。

    「君もそれ、分かってるよね。でも彼女とは寝てない」

    確信している口振りでそう言い切った。
    俺は向けられる視線を反らすことなく強い視線で受け止める。
    それしか今の俺にできることはない。
    こいつの言うことに反論の余地もなかった。ぐうの音も出ねえぜ。

    「自分に従順なタイプじゃだめなんでしょ?抵抗されるほど燃える…ってね」

    身に覚えのある指摘にゴクリとつばを飲み込む。
    これ以上コイツ等と関わると、恐ろしい結論に達してしまいそうだ。

    「うるせえ!テメエ等に関係ねえだろうが。あんなチキン野郎好きなわけねえだろ。男だぞ!」

    俺が野郎なんぞに本気になるわけがない。
    確かにあいつとは寝てる。
    気軽で、安全で、体の相性も良くて気持ちいい。感じてるときの声や顔も気に入ってる。最近妙にエロくなってきて、俺も煽られる事はあるが…それだけだ。
    だが、アーヴァインは何かを確信しているように口を開いた。

    「ふ~ん。パーティーの時の君、嫉妬してますって顔してたけど。自覚無し?」

    続いてスコールまでも口を出してくる。

    「ここ最近のあんたは心ここにあらずだ」

    コイツ等の話なんか聞いていられるか。
    俺はガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。
    そうしてスコールがまだ何かを言い掛けているのを無視して、その場から離れた。
    2人の視線が追いかけてくるのを背中で感じたが、振り返りはしなかった。




    寮へ向かって歩く俺を、まわりの生徒が何事かと避けていく。
    普段から横柄な足音が更に激しくなる。
    あの後苛立ち紛れに訓練施設で暴れたが、全く気分が晴れやしねえ。
    あれからあいつらの声が頭に反響して仕方がない。
    俺があのチキン野郎を、ゼルを好きだって?冗談じゃねえ。
    俺がいつ嫉妬したってんだクソが。

    もう少しで自分の部屋につこうかといったその時、渦中の人物の名前が俺の耳に飛び込んできた。

    「ゼル=ディンだな。速度違反だぞ!」

    そう言ってゼルの腕を捕らえて尋問する男がいた。
    あれは俺の後釜の風紀委員の奴だ。
    あまり評判は良くねえみたいだ。俺が言えた義理じゃないが。

    「え~!!!ちょっと急いでただけだろ~!!」

    ゼルはそう言って、困ったような顔をする。だが一瞬にして短い眉を吊り上げて反論する。

    「走ってたわけじゃねーって。今のは早歩きだっただろ?」

    そうして風紀委員の男に詰め寄っている。

    「早歩きでも速度を超えたら駄目だ。一旦風紀委員室に来て貰おうか」

    風紀委員はゼルを連れて行く気らしく、掴んだ腕を引っ張ろうとしていた。

    食堂で感じたような苛立ちが俺を襲う。
    本来なら、あそこでゼルに詰め寄っていたのは俺の筈だ。
    俺がゼルに速度違反を告げて、ゼルが俺に
    言葉を返す。あいつが見上げるのは俺だったはずだ。
    そう思ったら、もう止められなかった。

    言い合いをする2人にズカズカと近寄ると、ゼルを掴む風紀委員の腕をつかむ。

    「さ、サイファー!?」

    ゼルが俺を見るなり大きな声を上げた。
    腕を捕まれた男は、俺を見るなり息をのんだようだった。

    「な、何の用かな」

    男は恐る恐るというように俺に声を掛けた。

    「こいつは俺が預かる。失せろ!」

    そう力強く言うと、男は「わ、わかりました」と声を震わせて言った後に走る勢いで逃げていった。
    どっちが速度違反かわかったもんじゃねえ。

    ゼルを見ると、困惑した顔で俺を見ていた。
    自分の手中に収めると、先ほどまでのイラつきが次第に小さくなっていく。
    そうして今度は逆に、妙に脈が速くなる。体も少し熱い気がする。

    俺は何も言わずに、目的地であった自分の部屋へと行くためにゼルの腕を引っ張った。
    ゼルは抵抗もせずに着いてきた。
    短い道中、再びスコールとアーヴァインの声が頭の中を反響して仕方がなかった。



    つづく




    次回で最後になる予定です。
    スコールとアーにサイファーを諭させるシーンが書きたかったのでようやく叶いました!
    リノア&風神と対比させるの3年前くらいからずっと書きたかったんですよ。
    ちょっとこれについては後日またブログに書こうとおもいます。
    ネタはどんどん増えてくんですが、書く(描く)方が追いつかない…。
    今回も話の流れはできてるんですが、うまく纏められずに時間かかってしまいました。




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    拍手推してくださった方ありがとうございます!
    もう少しで小話完成なので走り抜けます!!!
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