チキン調教師の朝は早い。

  • 小話つづきです

    こんにちは!
    なんとか更新ペースをあげていきたいにょるです。
    という訳で小話続きです。



    ■■■

    昼食時に賑わう食堂で、漸くパンにありつけた俺は意気揚々とそれを齧った。
    隣に座る友人達が、今までどれだけ頑張っても俺がパンを買えなかった事を面白おかしくはやし立てている。
    いつもの日常だ。
    その時、食堂にサイファーと共に風神雷神が入ってくるのが見えた。
    ガーデンに復帰したサイファーと共に、『SeeDになってガーデンと社会に貢献する』のが彼らに与えられた使命だ。
    もう風紀委員ではないけど、サイファーは相変わらず横柄で、まだみんなは彼を恐れてるみたいだ。(まあそうだろうな)
    だが投げられる様々な視線にもまったく動じず、サイファーは椅子へと腰掛けた。
    そんなサイファーに、風神が何かを話しかけている。
    それに短い言葉で答えるサイファーの横顔が、あの日の夜のサイファーの横顔と重なって、俺は不思議な気持ちになる。

    いつもの日常って言ったけど、違うこともある。
    実はガーデンに帰ってきてからも、俺とサイファーの関係は続いている。
    訓練施設で汗を流した後、部屋に戻ろうとしてたんだけど、同じくバトル後で熱を持て余したアイツに声を掛けられたんだ。
    俺も抜いてから寝ようと思ってたし、例の借りの事もあるし、拒否はしなかった。(まあ気持ちいいしよ)
    そうした事が何回もあって、まだ俺達は抜き合いの延長のような関係を続けている。

    「おい、チキン野郎」
    そう言って目を細めて誘うのが、あいつのお決まりの合図だ。
    何度か誘われたとき、何で男の俺なんだ?女の子の方がいいんじゃねえ?って気になってた事を聞いてみたんだけど、『不特定多数と関係があるような尻の軽い女から変なもん移されたくねえ』んだとさ。
    ああ、あと『格闘家は締まりが良い』とか失礼なことまで言われた。(いや、誉められてんのか?)
    どちらにしろ俺はあいつにとって都合のいい抜き相手って訳だ。
    だがそれは夜の話で、昼のあいつはガーデンで顔を合わせても、我関せずとばかりに俺のことは知らんふりしやがる。きっちり引かれたラインが俺の目にも見えた。
    俺は正直、顔見んの恥ずかしいんだけどよ。(あんまそういう顔はしないようにしてんだけどな。カッコ悪いし)

    そこまで思考を進めた時、急にどこからか視線を感じた。
    俺は急いで辺りをキョロキョロと見回した。が、特に気になる奴は居なかった。
    逆にサイファーに気を取られて忘れていた、念願のパンを手元に発見する。
    サイファーの事よりこっちが大事だったぜ!
    俺は皆にからかわれながら、再びパンにかじり付いた。


    ■■■


    普段から静かな図書室が、更に静かになっているのを感じる。
    理由は分かっている。『俺』がいるからだ。
    一度は敵対したガーデンに戻ったんだからな。以前より過剰に扱われる事もやむを得ないだろう。
    部屋から出ていく奴も何人かいて、図書室はほぼ無人になる。
    まあそんな奴らのことなんざどうでも良い。
    俺は借りていた本を返却用の棚へと戻すと、新しい本を借りるべく本棚を見回した。
    いくつか気になるタイトルを手に取り、本のページをめくってどれを借りるかを検討する。
    その時、図書室の受付の方から女子の話し声が聞こえてきた。
    数人が一応声を潜めて話しているようだが、辺りが静かなので筒抜け状態だ。

    「今度入荷する本どれだっけ?」

    図書委員か。
    俺は無視して続きをめくろうと手を伸ばした。

    「これこれ。あ、ねえゼルの好みのタイプ聞いた?」

    だが急に飛び出した聞き覚えのある名前に、俺はページをめくる手を止める。

    「結局わかんなかったんだよね~」
    「ゼルさん、本当につき合ってる方はいないのかしら」
    「ゼルだよ?いないでしょ~」

    寝てる男はいるけどな。
    俺は鼻で嗤って口の端を引き上げる。
    そうか、あいつに惚れてる奴がいるのか。
    妙な優越感が沸き起こる。
    好みのタイプだと?
    俺はあいつがどんな声でイくかも知ってるぜ?
    感じる顔も知ってるし、どこが感じるかも知ってる。
    あいつの中がどれだけ熱くてキツいかも知ってる。
    俺はお前が知らないあいつの秘密をしってるぜ?

    そこまで考えてハッと我に返った。
    チキン野郎の事なんざどうでもいい。
    図書室から出ていった雑魚共と同じだ。

    いくつか新しい本を借りた俺は、その足で指揮官室へと足を運んだ。
    お偉いスコール様が直々に俺の単位取得
    状況を見てくださるとのことで、わざわざ出向いてやった次第だ。
    ノックせずに部屋に入ると、ソファに腰掛けていたスコールが俺に気づいて顔を上げた。
    そうして「入室するときはノックをしろ」と言い掛けて固まった。
    普段は無表情を張り付けたような顔のスコールが、俺を見たとたんギョッとした顔をした。
    「気味が悪い」
    第一声がこれだ。
    俺がどういう意味だと凄む。

    「何ニヤついてるんだ。良いことでもあったのか?」

    そう言って、向かいに座るよう促された。
    記憶に無いことを言われて、俺は不機嫌になる。
    これ以上めんどくさいことを言われては敵わない。
    わざと眉間にしわを寄せて強面を作ると、抱えていた本をローテーブルに置いて
    ソファに腰掛けた。
    すると、それを見ていたスコールが再びギョッとして、固まった。

    「それは何だ。いや、ケチをつける訳じゃないが」

    そう言って、テーブルの上の本に目をやった。
    何のことだと俺もそちらに目を向けて気付く。
    なんだこりゃ恋愛小説じゃねえか!
    しかも表紙にピンクのハートが飛んでやがる。
    急いで顔を上げて目の前をスコールを見ると、不思議な生き物を見るような目でこちらを見ていた。
    顔に『大丈夫か…?』と書いてあるのが見える。
    俺は自分の無意識ぶりに驚く。
    そんなに気がそぞろだったか?
    これ以上奇異の目で見られるのは勘弁願いたい。
    スコールの視線を無視して、早く始めろ!と怒鳴った。


    つづく



    スコールが出てくる話が好きでつい出してしまいます。





    ーーーーーーーーーー
    拍手ありがとうございます~!!
    力になります。更新早めにできるよう頑張ります!

Copyright © Textt / GreenSpace