「よう!」
俺は今日も朝から部屋に迎えに来たサイファーに声を掛けた。
俺の声に気付くと、返事のようなものをしながらコートを揺らして廊下を歩いてくる。
実は最近、こいつと朝飯食いに行くのがすっかり習慣になっている。
俺が行方不明になって、無事に解決した次の日からだ。
その日のサイファーは相変わらず不機嫌そうな顔をしながらも、律儀に俺の部屋の扉をノックしたんだ。
本当に来るとは思ってなかった俺は、ぽかんとした顔をしていたと思う。
一時期は険悪な時もあったけど、ちゃんと話してみると意外と面白いやつで、食わず嫌い(喋らず嫌いって言った方がいいのかな?)してたんだなぁと俺は自分の対人関係をちょっと反省した。
任務があって一緒に飯食えない日なんかもあるけど、なんだかさみしいと思っちまったりして、マジで習慣って恐ろしいと思う。
サイファーもサイファーで、毎朝きちんと迎えに来るのがなんだか面白い。意外と真面目なのかな。
2、3言葉を交わすと、連れ立って食堂へ向かう。
サイファーの左側はすっかり俺の定位置だ。
途中、雷神と風神がこちらに駆け寄ってくる。
こいつらと話すときのサイファーって、結構穏やかなんだよなぁ。
俺もそんな風になれたらと無意識に思ってしまって、なんだか恥ずかしくなった。
食堂に着くなり、サイファーの通るところに道が出来る。
生徒たちが彼を避けるのだ。
気持ちはよく分かる!現に行方不明事件の前までは、俺もそっち側の人間だった。
今は正SeeDとなり、素行も多少は良くなったと言ってもサイファーはサイファーだもんなぁ。
だが、本人はそんなことに気にも留めずトレーに食事をとると、適当なテーブルにドカッと腰を下ろす。
こっちに、はやく来いという目線を向けてくるので、急いで俺も食事を取ると(パンは今日も売り切れだった!)テーブルへと向かった。
席に着くと、雷神が昨日ゲットしたというクワガタがいかに凄いかという事をサイファーに報告している最中だった。
サイファーはフォークでニンジンをつつきながら、ああ、とか、そうか、なんて返事をしている。
自分以外のことに興味がないかと思ってたけど、きちんと聞いてやるんだよなぁ。
でも、さっきから俺とサイファーを交互に見ていた風神がなぜか雷神の足をけって話を中断させた。
「おい、食うか?」
足をさすっている雷神には目も向けず、サイファーが俺につついていたニンジンをフォークに刺して近づけた。
意味が分からずサイファーを見つめると、さっきから俺を見てただろ?相変わらず食い意地が貼ってやがる。
なんて言いながら、目の前でニンジンを揺らしている。
無意識に見つめていたことに全然気づかなかった。
俺は急いで視線を逸らしたけど、確かに腹は減ってたし、うまそうだったし、ニンジンはいただいておいた。
顔をできるだけ見ないようにしてたからはっきりしないけど、なんだか目を細めて満足そうに笑ってた気がする。
その時風神が突如咳払いをする。
いわゆる「あーん」状態だったことに気付いて、俺は赤くなって下を向いた。
と、下を向いた際サイファーの皿が目に入り、先ほどのニンジンが皿の隅にいくつか寄せられているのを見てしまった。
サイファーってニンジン嫌いなのか…。
か、かわいいじゃん。
ん?…ちょっとまてよ。
「っておい!自分の嫌いなモン人に押し付けんなよ!」
そういって食って掛かると、サイファーはようやく気づいたかと大口をあけて笑った。
サイファーがそんな風に笑ったとこなんて見たことなかった俺は、追撃するのも忘れてそのまま見入ってしまった。
性格は相変わらず苛烈で自己的だけど、合理的で、自分の信念を曲げるのはすげぇ嫌がる。話していくうちに知らなかった彼を理解していくのが本当に友達になれたみたいで嬉しかった。
ーーーーーーー
それから、サイファーは俺の大切な友人の一人となった。(もちろんガキの頃から仲間ではあったけど、もっとって意味だ)
朝だけじゃなくて、時間が合えば他の友人たちとのように食事を共にしたし、部屋でアイスホッケーの試合をテレビ観戦して俺のお気に入りのチームを一緒に応援したこともあるし(すげぇ盛り上がった)、互いのおすすめの雑誌を貸し合ったり、一緒に訓練施設でトレーニングに励んだり。
だから、理解できなかった。
あの時サイファーが何を考えてるか、俺にはさっぱりわからなかったんだ。
その日、俺は前日まで出ていた任務の報告書をまとめるのに四苦八苦していた。
今回はいくつかのチームに分かれていた作戦のため、その整合性を持たせた説明をするのがどうもうまくいかなかったのだ。そんな時、「暇か?飯食いに行こうぜ」と俺の端末に連絡が入った。サイファーだ。
行きてぇけど、報告書が大変なことになっていると泣きつくと、最初は「鳥頭だと記憶が追い付かないのから大変だなぁ」などとからかわれたけど、噛みついてこない俺に本当に切羽詰っているのが分かったのだろう、「手伝ってやるからそっち行く」と返信のメールが入った。
しばらくすると、いつものコート姿ではない、ラフな格好のサイファーが俺の部屋に入ってきた。紺色のタイトなTシャツが、サイファーの肌に貼りついてその体格の良さを主張している。ゆるいデニムの上にはエンブレム調のバックルが鈍く光っていて、大人の男って感じで、正直、凄く、似合ってた。
俺の薄手のタンクトップと膝上丈のハーフパンツが、なんだかガキっぽく感じてしまう。
「おい、見せてみろ」
俺がじっと見つめたからだろうか、少し焦ったように俺の書き掛けの報告書を奪って、ベッドのふちに腰掛けて読み始めた。
俺は、冷めかけた自分の分のカフェオレを入れなおし、サイファーの分のコーヒーも入れると彼に手渡した。
サイファーは報告書に視線を落としたまま、コーヒーを受け取ると、なるほどこいつは長い戦いになるなとこぼした。
サイファーの読み通り、俺たちの報告書との格闘は深夜まで続いた。
途中デリバリーを取って簡単に夕食を済ませ、俺が時系列と文章をまとめて、サイファーが推敲するという作業が永遠と続けられた。
途中でキレて投げ出すかと思ったサイファーも、結局最後まで根気よく付き合ってくれて(途中で多少の愚痴はあったが)、心から感謝した。
前日からの任務もあって、精根尽き果てた俺は強烈な眠気に襲われてしまって、ベッドに腰掛けるサイファーもそのままにベッドにダウンしてしまった。
ーー何かの気配を感じる。
うつぶせで気持ちよく寝ていた俺は、ベッドの上を何かが動く気配にゆっくり意識を浮上させた。
ベッドがキシッと控えめな音を立て、続いて探るように俺の名前が呼ばれたような気がする。
襲いくる眠気と闘っていると、何かが俺の上に覆いかぶさってきた。
首元に、控えめな呼気を感じる。
俺は何が起こっているのかわからず、驚いて固まってしまった。
何かは、俺の首元に何度も唇を寄せて深く息を吐いた。そうして、次の瞬間ゆっくりと腰を揺らしだしたのだ。
辺りに衣擦れの音が響く。
俺の尻のあたりに何かを押し付けるようなその動きに、俺の睡魔はすっかり吹っ飛んで、ただただ寝入ったふりで固まるしかない。
「ゼル」
その時小さく、俺の名前が呼ばれた。
サイファーだ。
俺がダウンしたことで、あの後サイファーは帰ったのだとばかり思っていたが、まさかまだ部屋に残っていたなんて。
な、何してんだよサイファー!訳が分からず、俺の頭の中で必死に何が起こっているのかを考える。
首元の呼気が弾んでゆく。心なしか動きも大きくなっているように思う。
尻に押し付けられている部分にバックルと思われるものが当たって少し痛い。
俺の体のあちこちを這っていたサイファーの手が、俺の背中の辺りで止まったかと思うと、カチャカチャと小さく金属音がして何かがシュッとという音とともに引き抜かれた。
ベッドの下にゴトリと落ちたそれを薄眼で見ると、サイファーの付けていたベルトがそこにあった。
それとともにチャックを下ろす音がして、少し衣服を寛げたのだろう、再び動きが再開されだした。
尻に押し付けられる固く熱いものを、先ほどよりもはっきりと感じる。
バックルじゃない。
ゼルはその意味を悟って驚愕する。
気持ちがいいのか、サイファーの鼻にかかったような息が耳を掠める。
それが頭の芯まで響いてしまい、思わずビクッと反応してしまった。
すると、俺が起きると踏んだのだろう。サイファーは名残惜しそうに体を起こして、そのままギシリとベッドを降りた。
ベルトをつかんで立ち上がると、そのままなぜか動かずにじっとしている。
視線を感じるから、きっとこちらを見ているのだろう。
どうしようかと目を閉じてじっとしていると、ようやくサイファーは部屋を出て行った。
俺は詰めていた息をふーっと吐いて、緊張を解いた。
色々なことが起こりすぎて頭がいっぱいだ。
俺は吹っ飛んでしまった眠気を取り戻せぬまま、悶々とした夜を過ごした。
つづく
ゼルにすりすりするサイファー激萌え…!
それの意味が分からない、まだまだ子供なゼルもたまらなく萌える…!!あーゼル可愛い。
もう一波乱ありますので、頑張ります!