「なぁ、俺さっきまで誰からも見えなかったのに、急にあんたには見えるようになったんだ」
そう言うと、こちらをじっと見つめるサイファーに続ける。
「なんか…心当たりってないか?」
言われたサイファーは少し考えるような仕草をして、そして何かに気付いたように
ベッドサイドに無造作に置かれた小瓶を見る。
すっと手に取ってラベルを見ると思わずといったように噴出した。
そうしてこっちにその小瓶を渡す。
「これだ」
そう言って手渡された小瓶のラベルを見ると…
《常態異常もばっちり回復!万能薬入り栄養剤》
「!?」
驚いてサイファーの方を見ると、いつものニヤリと笑った顔が張り付いていた。
「テメェのドジには、マジで参ったぜ」
そう言うと、再び俺を強く抱きしめた。
ーーーーーーーーーーー
「まぁまぁまぁ!ゼル!良かった!本当によかったわ!」
キスティスがそう言って俺に抱き着いた。
普段のキスティスならそんな大胆なことはしなかっただろう。その行動に相当心配していたことが
伺えた。彼女の顔にも疲れが滲んでいて、自分が起こした事の大きさを改めて実感する。
あれから、普段の調子を取り戻したサイファーと共に状況を整理し、司令官室に詰めっきりだったスコールに報告をしに来たのだ。
サイファーによると、モンスターとの交戦中に突如俺が消えたらしい。止めを刺そうとした俺が、モンスターが断末魔のように放った光の後、文字通り目の前で消えたことで、班員たちは動揺したがなんとか体制を整えモンスター自体は討伐したそうだ。
その後班員たちがいくら捜索して俺は見つからず、戦闘中行方不明者として報告された。
当然、高ランクのSEEDが突如目の前で行方不明というのは不可解すぎた。
そこで、モンスターの組織を持ち帰りすぐにエスタの機関に調査の依頼を出したそうだ。
そうして捜索隊を組織して連日俺の捜索にあたらせていたらしい。
サイファーははっきりとは認めなかったけど、俺を探しに行ってくれたんだろ?って聞いたら、
そっぽを向いて『仕方ないから捜索隊の隊長を引き受けたんだ』との事だそうだ。
俺の身に起こったことを司令官用の椅子に座っているスコールに報告すると、エスタからも特殊な魔法の痕跡があったと報告があったことを教えてくれた。
餅は餅屋だと言ったスコールは、早速どこかに連絡を取りだした。
何度かのコール音の後、スピーカーから聞きなれた声が聞こえた。
「スコール、ゼルはどうなりましたか?」
慈愛に満ちた美しい声。ママ先生だ。俺が行方不明だったことは既に連絡済だったようで、心配そうな声が辺りに響いた。
「ママ先生、ゼルは無事発見されました。」
落ち着いたスコールの声に、ママ先生から歓声が漏れた。
それから少し現状を報告をして、スコールはゼルに交代した。
「体が誰からも見れなくなって、声も伝えられない、足も無くなったみたいでふわふわ漂ってた」
その言葉を聞いて、しばらく考えこんでいたようだったが、聞いたことがあるわと話し出す。
「まだハインが分かれたばかりの時代に体を透明にする魔法があったはずよ。今は失われてしまったと思っていたけれど、まだ保有しているモンスターがいたなんて…。」
そう言って、バニシュという魔法だと教えてくれた。
ママ先生の見立てでは、バニシュとサイレス、そしてレビテトが同時にかかったのではないかとのことだった。
物もうまくつかめなかったと付け加えると、キスティスが体が見えないせいで距離感がつかめず上手くいかなかったのではないかとの仮説を立ててくれた。(そういえばドアは触れた)
それが、万能薬入りの栄養剤のおかげで状態異常が解除されて姿が見えるようになった、という事だった。
キスティスから、どういう状況と手順で栄養剤を飲んだのかと報告を求められたけど、『栄養剤を飲んだサイファーと自分を認めてほしくて舌を絡めてました』とはとても言えず(っていうかあれって俺もしかしてサイファーとキス…しちまったんじゃねえの?!)、真っ赤になっていると、もう一方の当人から助け舟が出される。
「こいつが持ち前の食い意地で俺の部屋にあったのを飲みやがったんだよ」
そう言ってニヤッと笑って俺を小突いた。
キスティスがもうゼルったら…と小さく笑う。
サイファーのくせに、ちょっといい奴じゃんと俺もキスティスに合わせて小さく笑った。
「凄く心配と迷惑かけた。ちゃんとわかってる。どんな処分でも受けるよ。」
俺がそう言うと、スコールは見るからに疲れた顔を緩めて、俺の肩に手を当てた。
「覚悟は受け取るが処分はない。ただ、報告書だけ上げてくれればいい。今回ゼルは被害者だ。ゆっくり休養を取るといい。学園長にも確認を取っておくから気にするな。」
そう言って、無事で良かったと微笑みとともに(あのスコールが微笑んだんだぜ!)零した。
「あとの処理はやっておくから」
キスティスはそう続けると、報告書は2日以内に提出してね。と期限を付けることは忘れなかった。
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しばらく自室での療養となった俺は、部屋まで送ると言ったサイファーに連れられて自室までたどり着いた。
「今日はありがとな」
そう言って扉に手を掛けると、思いのほか強い視線が俺に向けられた。
「明日、飯の時間になったらまた来る」
サイファーから注がれる強さに少したじろぐが、まだ心配してくれているんだろう。
「分かった。じゃあまた明日な!」
そう言ってサイファーに微笑むと、了解と言って踵を返していった。
俺は、なぜだかわからないけど、その背中から目が離せなかった。
おわり
久しぶりに1本書ききりました!
楽しかった~!FF6で出てくるバニシュを使って何か話を作りたいなぁと思ってできた話でした。サイファーはゼルがいきなりいなくなったら、絶対取り乱しまくると思うんですよね。気持ちの整理付けるのはあまりうまくない人だと思います。
そして、この話はまだ続きます。ゼルがきちんと自分の気持ちに気付いてサイファーとお付き合いするまで頑張ります!
また続き物としてここで連載していこうと思いますので、ご拝読いただけると嬉しいです~!