ゼルの意思を持った強い口調に、アーヴァインは思わず疑問の声を挙げようとした口を塞ぐ。
「最初は何がなんだかわからなかった…」
「何でサイファーが、急に、あ、あんなことしたのかとか…」
俯きながらもとつとつとゼルが話し出す。
「すげえ、怖かった。どうやって逃げようか、ずっと考えてた」
「でもよ…あいつの声を聞いたら、流されてもいいって思ったんだ」
それは、アーヴァインへの相談と共に、口に出すことで自分の気持ちを徐々に整理しているようにも見えた。
「…嫌じゃなかった」
「いつもはすげぇ嫌な奴なのに、なんか妙に優しくて。最近俺と言い合いしてる時に、時折切なそうな顔するサイファーを思い出したら、抵抗する気が失せちまった」
「……アイツを受け入れてもいいって、思ったんだ」
「変だよな、俺。どうしちまったんだろ…」
そう言って、ゼルは手を前髪に差し入れて、困ったように苦笑した。
「それは…ゼル…」
その表情に、察しのいいアーヴァインは気付いてしまう。
ゼルもまた、サイファーに惹かれ始めていたのだ。
「でも、とんでもない事したって、終わった後気付いて、凄く混乱しちまって、気がついたらアーヴァインのとこに来てたんだ」
「ほんと、迷惑だったよな…。ごめんな」
そう言って、ようやくゼルはアーヴァインの方を向いて微笑んだ。
ゼルはまだ自身の気持ちに気付いていないのだろう。
それもそうだ。普段のサイファーの態度はあまりにも頑な過ぎた。
それに加え、今回の急な接近と来ている。
順序を踏んで近づけない幼馴染達の不器用さに、アーヴァインは苦い思いをかみ締める。
サイファーもサイファーだ。あんなにあからさまにゼルにちょっかいを掛けていたのだ。
特に最近のサイファーときたらゼルにベッタリだった。
当然周りには彼の気持ちなど筒抜けだ。にも関わらず、ゼルにはさっぱりの有様だった。
いわゆる、見てはいられないという奴だ。
例えゼルが許していたとしてもサイファーのした事は許せないし、これからも許すつもりはない。でも、ゼルのことが大切な自分もいるのも事実だ。
少しは手助けしてやるのもいいかもしれない。サイファーの為ではなく、ゼルの為に。
「ゼルはサイファーとすんごく仲悪いよね。もう見てて最悪なくらい」
「え、そんな風に見えるのか?そ、そんなには悪くないだろ?」
ゼルが戸惑ったように、急いで口を挟む。
「違うの?」
「いや、そりゃ良くは無いと思うけど、結構同じ事考えてる時もあるし…時々笑ったりするし…」
そう言って、手を口元に当てながら、今までのサイファーとのやり取りを思い出しているようだ。
「ねぇゼル、今僕にサイファーと仲悪いって言われてどう思った?」
「え?ど、どうって…」
「嫌じゃなかった?」
「あー…。ちょっと…嫌かも。」
「だね。それ、何でなのか、考えてみて?」
アーヴァインはそう言うと、ゼルとは反対の窓のほうを向いて再び言葉をつむぎ始める。
窓の外には、豊かな緑と、遠くの地平線に青々とした海が見える。
美しい、バラムの土地だ。彼らの、もうひとつの故郷。
「サイファーはさ、時々ゼルのこと、凄く懐かしそうに見てる事あるんだよ」
「懐かしそうに?毎日会ってるぜ?」
ゼルが不思議そうにアーヴァインを見詰める。
「そうだね。でも、きっと大切だったものを思い出してるんだと思う」
「なんで、そんな事が分かるんだ?」
アーヴァインは目を細めながら彼女に思いを馳せる。
「僕もそうだからね」
「俺、サイファーに会ってみる」
しばらくの沈黙を破って、ゼルがそう発した。
そうしないと、何も始まらないだろ?それに俺、考えんの苦手だしよ!
そう言って、ゼルはいつもの様に八重歯を見せながら笑った。
その歯切れのいい言葉に、既に自分の気持ちとの決着はつけた様だ。
「ゼルは強いね」
彼の芯の強さに、心の底からの尊敬を込める。
「へへっ、ったりまえだろ?これでも格闘クラスでは結構やる方なんだぜ?」
「…そういう意味じゃないんだけど」
得意そうに拳を作ってみせるゼルに、やっぱりどこか抜けているこの大切な友人を今しばらくは見守らなければならないかもしれないと、アーヴァインは気持ちを新たにするのだった。
取り急ぎここまでで失礼しますー!
もう少し続きます!