チキン調教師の朝は早い。

  • ようやく小話続きです~!あとがき追記

    SeeDの任務と勉強を忙しくしているうちに、12月はあっという間に訪れてしまった。
    俺とサイファーの関係は相変わらずだったけど、結局サイファーにはなにも聞けずにここまで来てしまった。

    しかも俺は運の悪いことに、試験前日まで1週間にも及ぶ任務が入ってしまって、試験が終了するまでサイファーには会えない予定だ。
    俺は今日何度目になるか分からないため息を零した。
    それを隣でセルフィが見つめる。
    奇しくもまたセルフィと同じ任務だ。
    今回は経費は十分に請求できるので、前回のような不便は特にない。

    「サイファーはんちょとなんかあったん?」

    セルフィが声を掛けてくる。
    俺が様子がおかしい時って、なんかばれちまうんだよな。
    だが俺は前回のように誤魔化す余裕もなくて、そのセリフにあいまいな応答だけを返した。
    それをどう受け止めたのか、「そっか~」と軽い返事をすると、気を使ったのか俺へ向けていた視線をそっと外した。

    「キスティ、どうしてるかな~」

    ぽつりとそう零して窓の外を見ている。

    キスティスは、予定どおり10月4日でSeeDを満了し、惜しまれながらもガーデンから旅立っていった。
    その見送りは壮大なもので、俺たちのほかに身近な友人たちとファンクラブの会員が集合していた。
    皆で購入した卒業祝いと両手に抱えるくらいの花束を渡し、涙を流しながらキスティスが見えなくなる最後まで見送っていた。
    俺は固い握手をして彼女を見送った。
    しばらくはガルバディア辺りで一人暮らしをすると聞いている。
    キスティスなら自らの身の振り方もきちんと考えているはずだ。
    俺はキスティスの見送りに来なかったアイツを思って目を閉じた。

    それからは、セルフィは1週間の任務の間一度もサイファーの話題を出さなかった。
    俺も、アイツの事を思い出さないよう、空いている時間はとにかく勉強一番で、参考書に没頭した。
    気を使われているのをうすうす感じたけど、差し迫る試験日とアイツとの関係を思うと、もう平気そうなそぶりすらできなかった。



    そうして審判の日、12月7日が訪れる。教職試験日だ。
    俺は緊張の面持ちでガーデンの床を踏みしめる。
    教職試験日にあたって本日は休校となっているから、生徒の数もまばらな感じだ。
    俺は指定された第3教室へと急ぐ。
    事前に調べたところSeeD OBやガーデン以外の他校の教職免許を持っているものも受けに来るらしく、教職の倍率は高くなっているようだ。
    その為、いくつもの教室に分かれて行われる事になっている。
    俺が第3ってことは、第1と第2の分も受験者がいるってことだ。
    俺は気合を入れる為、グローブをした手で両頬を叩いた。

    いつも聞いている本鈴の合図がこんなに大きく聞こえたことはなかった。
    学生だった頃は授業は結構適当に受けていたし、予鈴を無視して遅刻することもよくあった。
    音が鳴り終わるとともに、教室中に一斉にペンを走らせる音が響く。
    俺もその波に乗り遅れないよう、音に溶け込んでいった。




    とぼとぼと、ゆっくりした足取りで自分の寮へと向かう。
    試験は無事に終了した。終了の合図ぎりぎりまでねばって、すべての問題を解ききった。
    出し切ってぼおっとした頭では上手く思い出せないけれど、サイファーと解いた問題もたくさん出た。
    アイツが憤慨しながら教えてくれた公式は、確かに役に立ったのだ。
    今アイツの事なんて思い出したくないのに。
    任務が終わって次の日すぐに試験だったから正直すごく疲れた。
    俺は正SeeDで実績があるから実技が免除なのが本当に助かった。
    結果発表日は2週間後の20日だ。
    アイツの誕生日も迫っている。つまり、アイツとの離別の日だ。
    駄目だ、道を違えたんだからもうそういうことを言うのはやめにしたはずだ。
    あ、そういえばプレゼント買うのすっかり忘れてた。
    最後のプレゼントくらい、きちんとしたものを買ってやらないと。

    だけど心も体もぼろぼろの俺は、今はゆっくりとベッドに倒れこみたかった。



    ■■■


    朝飯を急いで食った後、俺はベッドで自分の端末と向き合っていた。
    試験の結果はそれぞれ自分端末へと送られてくる。
    もう、その時間が迫っている。
    今日は12月20日。試験の結果が送られてくる日だ。
    サイファーとは、あれ以来結局顔を合わせることが出来なかった。
    ホントは残された時間を少しでも有意義に使った方がいいに決まってる。
    でも俺の中のひねくれた心が、「この期に及んでなんで未だに一言も言ってくれないんだ」という心がそれを防いでしまう。
    顔合わせて平然としてられるほどまだ人間が出来ていない俺が取れる手段といえば、『サイファーを避ける』というものだけだ。

    ピピピ!と受信の合図を受けて、俺は震える手でメールを開いた。



    『ゼル・ディン 格闘技職及び世界地理学科 合格』



    一瞬息をのんで、そうして胸の奥から衝動が沸き起こる。


    「いやったああああああああ!!」


    ありったけの声で叫ぶと(隣の部屋のやつわりい!)、俺はすぐさま立ち上がってガッツポーズを作った。
    頑張った成果が出たのだ。
    サイファーと共に半年近く続けた努力が実ったのだ。
    苦労も多かった。沢山怒られたし、教えてもらった。
    そうだ。

    サイファーに報告に行かなければ。
    喜びに舞い上がった俺は、さっきまで持っていたサイファーへの不安な気持ちはすっかり忘れてしまって、公園で取ったセミを勲章

    のように母親に見せたがる少年のような気持ちでサイファーの部屋へと駆け出した。

    弾んだ息が心地いい。ガーデンの廊下を走るなって教師の声が後ろからしたけど、今日ばかりは見逃してくれ!

    俺は慣れた手つきでサイファーの部屋の暗証番号を入力すると、スライドする扉ももどかしく部屋の中へと飛び込んだ。



    「サイファー!!聞いてくれ!俺っ……!?」


    それを目にした俺は言いかけた言葉を喉に詰まらせた。



    辺りに、沢山の段ボールがひしめいている。
    ところどころ開けたままのそこに、服や、雑貨などがはみ出していて雑多に詰められているのが見える。

    サイファーは部屋の荷物をまとめていたのだ。

    「なに、してんだよ」

    俺の口から何かがこぼれた。
    先ほどまでの高揚感からまっ逆さまに落ちるように真っ白になる。
    上手く息もできない。


    「引っ越しの準備に決まってんだろ」


    しゃがんで箱の中に本をつめていたサイファーが、なんてことは無いという口調でそう言った。

    俺はごくりと唾をのむ。
    ついに現実と向き合う日が来たのだ。



    良く考えたら当然だった。
    サイファーは明後日にはガーデンを出るのだ。
    荷物をほったらかして行くわけにはいかない。
    キスティスだって退寮する前にはたくさんの荷物を総務課から郵送していた。

    なぜそのことに思い至らなかったのか。

    涙があふれてくる。
    ずっと我慢してたのに。
    ホントはアンタが居なくなることなんて全然受け入れられてなかった。
    カッコつけて大丈夫なんて思ってみても、心は全然休まらなかった。
    アンタはなんでそんな平気そうなんだよ。
    悲しいのは俺だけなのかよ。

    入り口に立ったまま、気付いたら言葉が飛び出ていた。


    「離れたくねえよ!あんたがいなくなっちまうなんて、嫌なんだよ!一緒にいたいんだよ!なんでそれが分かんねえんだよ!!」

    言葉に負けないくらい涙があふれてくる。
    そんな俺を見たサイファーから意外な言葉がかけられる。


    「教職受かったのか?」


    俺たちの事より、そっちが優先なのかよ。
    悔しくて悲しくて、現実に負けそうだ。


    「受かったよ畜生っ!!!!」


    そう言って、俺はしゃがみ込んで何度も涙をぬぐった。
    サイファーはゆっくり俺に近づくと、俺と同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。


    「俺もだ」


    ぐちゃぐちゃになってしまった俺の顔を真っ直ぐ見てサイファーはそう言った。
    俺は言われた意味がよく分からなくて、鼻をすすりながらサイファーを見つめた。

    すると、俺の前にずいっとサイファーの端末が押し付けられた。


    「サイファー・アルマシー 大剣技職及び魔女学と魔女歴史科 合格」


    涙で歪んだ視界でそれを確認すると、俺は信じられなくて端末とその奥にあるサイファーの顔を何度も交互に見てしまう。


    「俺も受けたんだよ。で、受かった」

    「えっ…え?」

    俺は未だ意味が分からずにぼおっとサイファーを見つめる。


    「来年から新設される魔女学の教員だ。適任だろ?」

    そう言ってサイファーはニヤリと笑った。

    「明日からもよろしくな、ディンセンセイ?」

    ……?
    いつもの厭味ったらしい笑みで俺を先生呼ばわりしてくるが、俺はまだ状況についていけない。


    「だ、だってこの荷物は?」

    じゃあ何のためにまとめていたというのだろう。
    どこに引っ越しするつもりなのか

    「あのなあ。ここは『SeeD』寮だろうが。一階上の教授寮へ移るんだよ。俺はSeeD満了だからな。
    同じ階じゃなきゃ不満か?ああ、離れるの嫌なんだったよな?」

    そう言ってニヤニヤと笑う。
    なんだろう。急にムカムカしてきた。

    「いつ、勉強したんだよ?」

    俺が投げやりにそう聞くと、間髪入れずに答えが返ってくる。

    「テメエと一緒にやってただろうが」

    「な、あれは俺に教えてくれてたんだろ?」

    「お前とは頭の出来が違うんだよ。一回読みゃあ覚えちまえるんだ」

    「……」

    そのやり取りの中で、俺の中にあった悲しいとか今までの鬱屈とした気持ちは吹っ飛んでしまった。
    むしろ今まで悩んでいた時間を返してほしいと怒りの感情すら湧いてくる。
    でも、ホッとした。
    とにかくホッとして、嬉しくて、まだサイファーと別れなくていいんだという事が分かって。
    止まっていた涙腺から、今度はツーと静かに涙がこぼれた。
    サイファーはそんな俺を、しゃがんだままあの美しい歌声の響いた夜と同じように抱いた。

    「俺だって考えてたさ。俺は今や中立の場所じゃなきゃ生きられない身だ。今までの事に後悔はない。が、俺の選べる選択肢は少な

    かった」

    そうして、これが最善の手段だったとサイファーは俺の耳元で零した。

    「離れたくなかったのは俺も同じだ、ゼル。薄ぼんやりとしていたそれを、お前が教職を目指すと聞いた日に、はっきりと決めた」

    俺を抱きしめる腕はやっぱり強くて、俺はまた動揺する。

    でも今度は、迷わずにその腕に身体を預けた。




    おまけ

    「俺は…あんたがF.H.で暮らしていくんだと、思ってた」

    「あ?なんでだよ」

    「だってあいさつ回りしてたんだろ?」

    「あれは俺がガーデン戻る前、プラプラしてる時に置いてもらったから、その礼と今はガーデンで教職目指してるって挨拶してたん

    だよ」

    「……マジかよ。あー…言葉がでねえ」

    「あそこは自由すぎて俺には向いてねえよ。俺は試験が好きなんだ(今度は出す側)」



    終わり




    ようやく終わりました~!スランプ気味で長かった…!
    普段はSeeDの年齢制の設定を無視して(撤廃になったことにして)お話を作るんですが、今回は、サイファーはアルティマニアのベニー氏の創作どおりガーデンに戻って、SeeDの設定もゲームに従った場合、サイゼルはどういう道を行くのかということを考えて書いた作品になります。
    実は3部作の真ん中の話で、おつき合い編と、教員生活編があってそれぞれ話は考えてあるんですが、しばらくは絵の練習したいのでそれが終わったら書きたいな~と思っています。
    ゼルはバラムのチビに好かれているあたり教職は向いてる方だと思います。
    サイファーはいまいちかと思いきや、元風紀委員ですし、『ねんしょうクラス』に対しても配慮できる辺り結構向いてるんじゃないかと思います。
    他のみんなの進路も考えてあるのでそれはいずれこのシリーズで出したいなと思います~!
    サイゼルの一つの可能性として楽しんで貰えれば幸いです!

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