ゆっくりと意識が浮上していく。
暖かな光が差し込んで、目の奥がキラキラする。
子供の頃、目を閉じた先に星空があるって思ってた。
サイファーはそんなもんある訳ないって馬鹿にしたけど、やっぱりあったよ。
こんなに気持ち良くて、あったかくって、キラキラするなんて。
胸がじんとする。
まだ起きたくないな。
ここは、やわらかくて、好きなにおいがする。
……
…
「ふあぁあ~!」
大きな欠伸を一つして、俺はゆっくりと起き上った。
ベッドの上で、猫のように伸びをする。
まだふわふわとした意識の中、ベッドに座ったままボーっと辺りを見回す。
なんか、いつもと違う気がする。
デスクに立てかけてあったTボードどこいったんだろ?
俺の部屋のソファってホワイトなのに、なんでブラックになってんだろ?
備え付けのチェストに立てかけてあるあの銀色の大きいケース、どっかで見たような…。
!!!!!
俺は飛び跳ねるようにベッドの上で硬直した。
ここサイファーの部屋だ!
お、俺…そっか…。昨日、サイファーと…。
昨夜からの記憶が急速に追いついてくる。
俺は再びベッドへと転がって、昨晩の余韻に浸る。
ふと自身の体を見ると、汚れた下肢や体が拭われていることに気付く。
あいつって、結構キス好きだよな…。気が付くといろんなとこに痕ついてるし。
しようぜって言った時のサイファーの顔、ちょっと面白かったな。
気持ち良くて、最後の方はあんまり記憶が無い。
とにかく必死にサイファーにしがみついて、あとは彼に身を任せた。
前を擦ってイくのとは、全然違う。体の奥底から痺れて穿たれるような快感が、まだ体を燻ってる。
最後は強すぎる快感に、頭が真っ白になって知らない間に吐精していた。
あいつも気持ちよかったのかな。
そこまで思い至った時、部屋にサイファーの気配がないことに気が付いた。
「どこいったんだろ…?」
辺りを見回すが、昨晩ベッドの脇に脱ぎ散らかしたサイファーの服すら落ちていない。
仕事にでも行ったのかーーー。
!!!!!!
そこまで思い至った時、俺はとんでもないことを思い出してしまった。
今日朝から2班を率いての実地演習を行わなければならなかったのだ。
集合は朝8時だ。いいいい、今何時だ!!?
急いでベッドサイドの目覚まし時計を見ると、無常にも針は11時を指していた。
信じらんね!信じらんね!遅刻だ!!!寝過ごした!
俺は急いでベッドの脇に畳んで置かれていた昨日の服を身に着けると、髪をセットするのも忘れて
サイファーの部屋を飛び出した。
持ち前の脚力で、任務の振り分けや情報処理を取り仕切る、司令官室まで飛ぶように駆け抜ける。
サイファーのやつ起こしてってくれりゃあよかったのに!ってあいつにそんなこと期待する方が無駄か。
頭の中で必死にサイファーを責めながら、スニーカーを軋ませて司令官室に飛び込んだ。
「キスティス!悪い!俺遅刻した!」
開口一番、控えていたキスティスにそう告げる。
はぁはぁと膝に手をついて、肩で息をしている俺に、キスティスが不思議そうに声を掛ける。
「あら、もう体調は大丈夫なの?」
意図しない回答に、俺はとっさに顔をあげる。
目の前のキスティスと、その奥に控えているスコールとシュウまでもがこちらを不可解に凝視していた。
「お前の報告は受けてるぞ」
「寝ていた方がいいんじゃないか?」
シュウとスコールが心配そうに声を掛けてくる。
俺は訳が分からなくて、きょとんとしたままキスティスに助けを求める視線を送ってしまった。
「あなたの今日の実地演習は、サイファーが代わりに行ったわよ」
体調が悪いからって聞いてるわ。それで交代してもらったんでしょ?
キスティスはそう続けると、伺うようにこちらに視線を送ってくる。
「え?あ、うん…」
俺はなんとかそう答えるのが精いっぱいで、飛び込んだ勢いはどこへやら、とぼとぼと司令官室を後にするしかなかった。
あいつ…行ってくれたのか。
1か月半にも渡る中期の任務の後、休暇も返上して仕事に赴く恋人に申し訳なさと、そして嬉しさがこみ上げる。
とりあえず自分の部屋に戻って身支度を整えようと、俺は寮へと足を向けた。
部屋でシャワーを浴びて新しい服に着替える。お気に入りの黒のタンクトップの奴だ。
シャワーを浴びていると、昨晩の性交の名残が後孔より零れ落ちていたたまれない気持ちになる。
でもそのままにしておくと腹に悪いことは学習して知っている。『彼』に聞いた通り、
そっと指を入れてサイファーの名残を掻き出した。
身を清めた俺は、改めてサイファーの部屋へと向かう。あいつに礼も言わなきゃらないし、できたら一緒に飯でも食いたい。
演習は昼までの予定だ。もうそろそろ、帰ってきてもいいころだろう。
部屋に着いてみると、はたしてサイファーは脱いだコートをソファーに投げているところだった。
丁度帰ってきたばかりのようだ。
「サイファー…」
俺はそっと部屋に入ると、控えめに名前を呼んだ。
顔を合わせるのがちょっと気恥ずかしいのと、礼を言いたいのと、他にも色々な気持ちが混ざって、凄く複雑だ。
あいつは顔だけでこちらを振り返ると、「なんだ、もう身体はいいのか」という言葉がニヤリという笑みとともに
投げかけられた。
あいつ!からかってやがる!!
「おかげさまで!」
俺は一転してズカズカと部屋に上がりこんで、ぼふんと音がしそうなぐらい勢いよくソファーへと腰かけた。
その衝撃で、ズン!と腰に鈍痛が響く。
「…っ!」
俺がおもわず顔をしかめて腰に手を当てると、さきほどまでニヤニヤとしていたサイファーの顔色が変わった。
「おい、無理すんな」
思いのほか真剣な声色でそう言うと、ソファーの隣へと腰かけてくる。
外傷なら仕事柄慣れてる。けど、内側の痛みってのは初めてで、どうも要領を得ない。
真面目な顔でこちらを覗き込んでくるサイファーに、さきどほまでの敵愾心が急にしぼんでいく。
正面を向いたままこくりと頷くと、「そうか、ならいい」と呟いて、サイファーもソファへと背中を預けた。
しばらくお互い虚空を見つめていた。俺たちには珍しい、ゆったりした時間が流れていた。
「演習、行ってくれたんだな」
サンキュと付け加えて、俺はサイファーへと顔を向けた。
「無理させたからな」
サイファーは一点を見つめたまま、そう答える。
だが一泊おいて、こちらへと視線をよこしてきた。
「そういや前まであんなにキツかったのに、なんで急に平気になりやがったんだ?」
俺は聞かれた瞬間ギクリとして視線を逸らしてしまった。
あいつは探る様に目を細めて、こちらを凝視している。
逃げられない。
明らかに、答えを知りたがっている目だ。
一瞬たりとも視線が外されることは無い。
こうなったサイファーから逃げられたためしなんて一回もないのだ。
降参して、真実を話す方が、有意義だ。
「や、やり方を聞いたんだよ。」
「誰に」
すぐさま、強い視線とともに言葉が返ってくる。当然ごまかせない。
「俺が覗いちまったあのカップルにだよ!」
もう破れかぶれだ。ほんとは秘密にしときたかったけど、しょうがねぇ。
俺はサイファーにそう叫んでいた。
■■■
あいつと初めて閨を共にしてから、ずっと考えていた。
物欲しそうにしている顔を、見て見ぬふりはできなかった。
早朝の任務も終わり、気も緩みかけた昼時だったと思う。
その日の俺は考え事をしながら図書室に向かう廊下を歩いていた。
にぎやかなガーデンの喧騒がなんだか遠くに聞こえる。スレートの床をを擦るスニーカーの音だけが嫌に耳に残る。
身体を動かすことや、創作活動なんかにかけては得意分野だけにどうにでもなるのだが、
この手の事はあまりに経験値が無さ過ぎた。だって俺の経験値なんて、何度か『触り合い』をした程度のものだ。
つまり、俺の頭を悩ませていたのは、男性同士の性行為の方法についてだ。
気が付くとたどり着いていた図書室で、解剖図や医療分野の本を読んでみるが、
当然そんな答えなど書いてあるはずもない。
何度もため息をつく俺に、図書委員が時折こちらに視線をよこすのが分かった。
ぱたりと開いていた本を閉じて、デスクに突っ伏した。
ガーデンの端末からなら調べることが出来るかもしれないが、端末は不正や情報の漏えいを防ぐために
誰が使用したか、何を調べたのかという履歴が残る仕様になっていて、とてもじゃないがそんなこと調べれない。
八方ふさがりだ。と顔をあげたその時、視界の淵にあるものが映った。
例の書架の入り口だ。
鈍くなりかかっていた頭に、急に電気が走ったみたいにひらめきが訪れる。
そうだよ、俺に経験がないなら、ある奴に聞けばいいんじゃねえか!
俺は勢い良く立ち上がると、今度は何事かと図書委員が見遣る視線を後に図書室を飛び出した。
目指すは、学園の生徒やSeeDの管理をしている事務室だ。そこでは、全てのガーデンの情報が保管されている。
あそこに行けば、彼らの所属が分かるはずだ。
事務所に着くと、受付の姉ちゃんの何か御用?という声が迎えてくれた。
結果、『彼』を見つけ出すのはそんなに難しいことじゃなかった。
おぼろげだけど顔は何となく覚えてたし、彼らが最中に甘く呼び合っていたおかげで名前が分かっていたからだ。
「ニヴァン!」
おれは、寮へ向けて歩く背中に向けて声を掛けた。
その男は、ゆっくりとこちらを振り返った。
短いライトブラウンの髪に、相変わらず前髪を立ち上げたイカした髪型だ。
モデルみたいに男前で、目元では長いまつげが揺れている。
「あんた…ゼル=ディンだろ?俺に何か用か?」
ずばり言い当てられて、ちょっと狼狽した。
俺の顔になんで知ってるんだって出ちまってたんだろうな。
「司令官の片腕だろ?そんな高ランクSeeDを知らない方がおかしいだろ」
当然だろ?とばかりに言われてしまう。
正直めちゃくちゃうれしかった…。俺スコールの片腕って認識なんだ…!
ちょっと感動に打ち震えちまったけど、本題はそこじゃねぇ。
俺は気合を入れなおして彼に向き直る。
「あんたに頼みがあるんだ。」
■■■
彼、ニヴァン=アダムスはガルバディア所属のSeeDで(ガーデン改革があって、今はバラム以外もSeeDを保有してるんだ)
実家がこっちにあるという理由でバラムとガルバディアを行ったり来たりしつつ、
両ガーデンからの依頼を受けているんだそうだ。(アーヴァインみたいな感じだな)
ガルバディアは軍気質が強いからか、彼から発せられる雰囲気もすこしピリついているように感じられた。
「それで?頼みってのは?」
俺の部屋に場所を移して、白いソファに腰を下ろしながら彼がそう問いかける。
俺はニヴァンに淹れたてのコーヒーを渡すと、ソファの反対側に腰を下ろした。
「俺にやり方を教えてほしいんだ」
ニヴァンが目を細めて続きを促す。
一瞬逡巡したが、でも言い切る。
「…あんた、男と付き合ってるだろ?」
俺のその言葉に目の前のニヴァンが、飲みかけたコーヒーの手止めて目を見開く。
「俺、前に…その…見ちまったんだ」
「書架であんたと…もう一人がしてるとこ」
ニヴァンが目を閉じて天を仰いだ。
「見られてたのか」
しばらくして視線を戻したニヴァンは、それで?とさらに続きを促す。
「俺、付き合ってるやつがいるんだけど、その…」
「や、やり方がわかんなくて…」
そうして口籠ってしまった俺に、ニヴァンが身を乗り出した。
「あんたも男と付き合ってんのか…?」
俺はなんだかいたたまれなくて、小さくこくりと頷いた。
「そうか…」
ニヴァンが乗り出した体を戻して、コーヒーに口を付けた。
「な、何度かヤろうとはしたんだ。でも入んなくてよ…」
「すげぇ痛ぇし、苦しいし…でもあんたは違った」
「そ、その…良さそうだった」
「こんな事、他の奴には言えねぇし…」
「それで、俺に相談してきたってわけだ」
下を向いて途切れ途切れに話す俺の結論を、彼が締めくくった。
「何事かと思ったぜ。あのゼル=ディンから顔貸せって言われた時はさ」
そう言って、ニヴァンは纏っていた固い空気を解いて、ニカリと笑った。
そうして俺は、『彼』から男を受け入れるための知恵を授かったんだ。
■■■
「てめぇ…信じらんねぇ。普通本人に聞きに行くか?」
サイファーが呆れたようにこちらを見遣る。
「だってそれしかないって思ったんだよ!事実うまくいっただろ?」
「俺より心臓に毛が生えてやがるな」
そう言って、くしゃくしゃと俺の頭を掻き回した。なんだかご機嫌だ。
「で、具体的に何をしたんだ?」
サイファーが軽い口調で問いかけた。何の気なしに聞いた一言だったのだろう。
だが、俺はビキリと音がしそうなくらい固まってしまった。
そ、それだけは言いたくねぇ…絶対、絶っ対からかわれる!
「へぇ…?」
だが、サイファーがそんな俺の反応を見逃すわけがなかった。
「言え」
強い口調と視線が突き刺さる。
それどころか、気が付いたらソファに組み伏せられかけている。
ちくしょう!なんとか誤魔化せないか…。
必死に顔を背けて逃げようとするが、やっぱダメだった。
仕方がない。どうせ逃げられないのだ。破れかぶれついでだ!
「自分でしたんだよ!自分でして慣らせって言われたんだ!」
一か月はやれって言われたから、だからそれまで待ってって言ったんだ…。
そう続けた時には、俺は完全にサイファーに組み伏せられてしまった。
「それで散々拒否しやがったって訳か」
俺の上になったサイファーが、そう言って顔を近づけてくる。
「かなりお預け食らったからな。正直かなりきつかったぜ」
そう言って、あいつは俺の肩越しに顔を埋めた。
ぽつりとこぼされたその言葉に、サイファーの本音が滲んでいるのが分かった。
「あんたなら我慢できなくて無理やりされるかと思ってた」
だから、俺も本当は言う気はなかったけど、ちょっと思っていた事がぽろりと
口からこぼれ出てしまった。
「…お前を失いたくなかった。俺ァ、ガキの頃に1回なくしてるからな。2回目は正直堪えた。」
しばらく顔をうずめたまま無言だったサイファーから、小さな声が聞こえてくる。
「だから…手が出せなかった。」
「無理やりヤって、お前が俺の前からいなくなると思うと、怖くて竦んじまった」
「それが一番、怖かったんだ」
サイファーの腕が、俺にギュッと回されて、しがみ付かれるみたいになった。
こいつにもそんな感情があるんだって、ちょっと驚いた。
でも俺はこんなサイファーを前にも見たことがあるんだ。
そうして、ようやく納得する。
それはあの日。薄暗いサイファーの部屋でそっと涙を流す彼を見たときに始まってたんだって。
誰よりも尊大でプライドが高いけど、その分誰よりも繊細なサイファーが大好きになっちまってたんだってこと。
この大きな体の中には、俺へのたくさんの思いや気持ちが詰まってる。
俺はそれをサイファーの体ごと、しっかりと抱きしめ返した。
俺の気持ちも、こいつに伝わる様に。
END
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ようやく終わりました~!
小話といいながらずるずる長くなってしまいまして、お付き合い頂きましてありがとうございました~!
ENDにしてありますが、実はすでにちょっと続きを考えておりまして、また書けたらなと思っております…!
途中のオリキャラについてですが、本来は名前を出す気はなかったのですが、ゼルに教授する人間として身元を明かした方がいいだろうというのと、先述した続きでまた登場する予定になっておりますので、名前が無いと不便だということで付けさせていただきました。モデルに因んだ名前になってます。
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拍手ありがとうございます!
続けて頑張っていきたいと思いますので
また見に来てやってくださいませ~!