RRRRR--RRRRR--
「ん…なんだこんな時間に…」
サイファーは枕元で鳴り響く端末の音にゆっくりと意識を浮上させ、眉をしかめた。
「んーー…さいふぁ?」
その物音に隣で寝ていたゼルまでもが目をこすりながら意識を浮上させる。
サイファーの方に目をやると、ベッドの上で上半身を起こし、なにやら誰かと話しているようだ。
「ああ…チッ…しょうがねぇ。分かった…後でな」
そう言って電話を切ると、彼は再び暖かなゼルの隣へと体を滑らせた。
「仕事?」
「ああ、ちっと出てくる。」
「今から?…何時?」
「4時ちょい前だ」
SEEDという仕事柄とはいえ、容赦ない呼び出しにゼルの顔が曇る。
「まだ正月だぜ…?折角一緒の休みなのによ…」
ブツブツと文句を言う口が拗ねているようで、どうしようもなく愛おしい気持ちが込み上げる。
「1、2時間で戻るからイイ子で寝てろ」
そう言って、なだめるように音を立てて頬にキスを落とす。
サイファーとてこの温もりから離れ難いのは言うまでもない。
只でさえ休みにかこつけて遅くまで愛し合った体は、睡眠不足と疲れのせいでずっしりと重く、とても立ち上がる気にはなれない。
サイファーは持ちうる限りの理性を総動員させて、ようやくベッドから起き上がった。
簡単な身支度をして出て行くサイファーをベッドの中から見送ったゼルは、そのまま音を立てて毛布へと潜り込んだ。
納得しきれないもやのような気持ちが心に広がって仕方がない。
しかし拗ねていても仕方がないのはゼルとて承知だ。サイファーが帰ってくるまでもう少し眠ろうと、ギュッと目を閉じて睡魔が訪れるのを待った。何せ昨晩は散々貫かれて何度も限界を迎えたのだ、直ぐにまた眠れるだろうとタカを括っていたのだが、サイファーが居た場所が次第に温度を失っていくのが気になって、睡魔は一向に訪れはしなかった。
仕方がないと体を起こしたゼルに、空気の冷たさが一層厳しく突き刺さる。
サイファーはこんな寒い中外へと出かけて行ったのかと思わず眉をしかめた時、ゼルのお腹が同意するようにグゥと鳴った。
「そうだ!」
その時ゼルにある考えが浮かんだ。
これなら一石二鳥の筈だ。
思いついたら居てもたっても居られないゼルは、早速ベッドから起き上がった。
「いい匂いがするな」
宣言通りの時間で帰宅したサイファーは、部屋へと入るなり口元を綻ばせた。
「あ、お帰り!」
「寝てろって言ったろうが」
「へへっ、じゃーん!」
そう言ってゼルはサイファーの前に一つのお椀を差し出した。
「なんだこりゃ」
「お雑煮って言うんだぜ」
椀からは暖かな湯気と上手そうな匂いが立ち上っていた。
「母さんが昨日餅を送ってくれたの思い出してさ。正月に食べる郷土料理なんだ」
「へぇ」
椀を受け取った手が、じんわりと暖かくなってくるのが分かる。
「嫌いな具、無いよな?」
心配そう言われて中を覗くと、餅に青菜、少々の野菜が澄まし汁と共にそこにあった。どれもサイファーの食べられるものばかりだ。
「とりあえず母さんのレシピで作ったんだけど、これって地方やその家々で好みの味がある料理でさ…」
ゼルはそこまで言って、少し恥ずかしそうに言葉を区切った。
「よかったらあ、あんたの好みも加えてさ、お
、俺達のお雑煮の味…作れたらな…とかさ、ちょっと思ってさ…」
俯き加減でそこまで言うと、パッと顔を上げてサイファーの背中を押しにかかった。
「と、とにかく食おうぜ!俺も腹減っちまって!」
照れ隠しなのか、いそいそと自分の分を用意するゼルをみていると、夜中の呼び出しはむしろ役得だったとさえ感じるほどだ。
家の味たぁ、味な真似するじゃねぇか。
きっとキスティスやセルフィなら色々な具材や味のバリエーションを知っているだろう。休みが明けたら、来年にむけて研究だな、とサイファーは今年の抱負を決意したのだった。
職場でお餅を頂きました。お雑煮大好きなんですが、ほんっとにいろんなバリエーションがあってとても面白いと思います!
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