チキン調教師の朝は早い。

  • 遅ればせながら誕生日小話です

    こんにちは!大晦日ですね~。今年も無事サイゼルに萌えた一年でしたが、来年も変わらず萌えていきたいと思います!
    遅くなりましたがサイファー誕生日小話です。
    冬はしっとりしたお話が書きたくなります。
    来年もよろしくお願いいたします~!

    その日は普段よりもずっと寒く、上着無しで外にでるのははばかられる気温だった。
    ただ、空気は澄んで、辺りは人々の活気に溢れている。
    もうすぐ、クリスマスなのだ。
    クリスマスイヴまであと2日と迫るこの日、ゼルはガーデンの中を走り回っていた。
    彼は、昨日からある男を捜していたのだ。
    サイファー=アルマシー。
    言わずとしれたガーデンのご意見番だ。
    一時はガーデンと敵対もしたが、今は再び元の鞘へと戻り、そしてゼルの側に収まっている。
    その男が、昨日から姿を見せないのだ。
    未だSeeD候補生で先の大戦で戦犯となった彼はガーデンから出る際には許可が必要だった。
    だが、ゼルが学園長に確認しても、その許可証は提出されていなかった。
    今も以前のように憮然とした態度をとることも多いが、彼なりのガーデンに対する感謝もあるのか、以前とは違いガーデンの規則を遵守している。許可なく外出するとは考えにくかった。
    今日は特別な日なのだ。
    12月22日。サイファーの誕生日。
    トラビアで任務をこなして、一番の船でガーデンへと帰還したのだ。
    昨日の夜ガーデンに到着したゼルは、早速サイファーの部屋へと向かうが、そこに彼の姿はなかった。
    まさかと思い、自分の部屋へと走って向かうが(以前、おかずにしたとか何とか言ってゼルのベッドで寝ていたことがあったのだ)今回はベッドに彼の姿を見つけることはできなかった。
    もしかしたら雷神の部屋にでも泊まっているのかもしれないと、流石にこの夜分に訪ねられないと思ったゼルは、彼の捜索はいったん諦めてベッドへと沈んだのだった。
    そうして翌朝からサイファーの姿を探してあっちこっちと飛び回っている。

    いつも風神雷神とたむろしている食堂はどうかと駆け込んでみると、そこにはいつものメンツが集まっていた。
    「キスティス!」
    一番手前にいたキスティスに声を掛けると鈴の鳴るような声で迎え入れられた。
    テーブルにはキスティスをはじめ、セルフィ、リノアと女性陣が勢ぞろいだ。
    「ゼルおかえり~!トラビアはどうやった?」
    先日まで任務で行っていたことを知っているセルフィがテーブルに乗り出しながら聞いてくる。
    「ああ、あいっかわらず寒ぃよなぁ~あそこ。でもトラビアガーデンの奴らって活気あるよな~」
    そういってやると、嬉しそうに「そうやろ~」と自慢げに胸を張る。
    それを笑顔で受けながら、食堂にサイファーが居ないかキョロキョロと見回す。
    「さっきからなにか探してるようだけど、どうかしたの?」
    食堂に入ってきたときからの様子を言っているのだろう、キスティスがゼルの様子がおかしいと指摘してきた。
    「あーっと・・・サイファーのやつ知らねぇかな?」
    サイファーとのことはすでに皆が知っているが、やはり直接彼の所在を聞くのは気恥ずかしい。
    「あー分かった!そうかそうかふむふむ」
    何かに気付いた様子のリノアが、にやにやとゼルを見つめる。
    「今日は特別な日だもんね、サイファーの!」
    恋人未満だったとはいえ、流石はサイファーを想っていた彼女だ。知っていてもおかしくない。ゼルは焦って誤魔化そうとするが、セルフィ達勢いは凄かった。
    「えーなになにうちにも教えてよ~!」
    「リノア、何か知っているの?」
    当人のゼルを置いて、女性たちの話は盛り上がる。
    「今日、誕生日なんだよね?」
    ゼルに向かって、かわいくウインクを投げかけてくる。
    気恥ずかしくて頬が赤らんでしまう。
    まわりではセルフィ達が黄色い声ではやし立てている。
    「い、いいだろ!別に!やっぱなんでもねぇ!」
    「よくないやん!はよ見つけぇな!」
    「でも今日は姿を見ていないわね…」
    テーブルを叩いて照れ隠しをするゼルを無視して、女性達はサイファーの所在を思い浮かべる。
    「保健室は見たの?カドワキ先生のお世話になってるかも」
    「カドワキ先生はさっき図書室で会ったで!」
    「そうねぇ…校庭とか?」
    止まらない彼女たちに、ゼルは諦めてしぶしぶ話し出した。
    「校庭にも、部屋にも教室にもどこにもいなかったんだ…」
    沈んだゼルを囲んで、しばらく沈黙が続いた。
    静寂を破ったのはキスティスだった。
    「ねぇ、前もこんなことあったわよね?」
    不思議そうにみんなが彼女を見つめる。
    「ほら、石の家の頃!サイファー、いつも誕生日の前になるとどこかに行っちゃってまま先生が探してたわ」
    それを聞いて不思議な顔をしていたセルフィもようやく記憶にたどりついたのか、そうやん!と続ける。
    「朝ごはん終わるとどっか行ってしもて、いつもキスティが最初におらんことに気付いてまま先生に連絡しとった」
    リノアは初耳のようで、興味津々だとばかりに聞き入っている。
    「どこにいってたんだ?」
    小さかったせいで記憶が曖昧なゼルも同じように食い入る。
    「天窓の屋根の上に上ってたのよ」
    キスティスが笑みと共に懐かしそうに目を細めた。
    「あの一番高かったところか?」
    ゼルも記憶を辿っていく。
    石の家には光を取り入れる天窓が屋根の一段上にあり、3階に相当するほどに高い場所だったはずだ。
    ゼルは当然登れるわけもなく、時折サイファーが屋根の上に登るのも危ないと思っていたくらいだった。
    「なんでそんなとこに?」
    首を傾げてキスティスを見るゼルは年齢よりだいぶ幼さくみえた。まるで当時に戻ったかのようでなんだ懐かしくなる。
    「さぁ?サイファー、理由は誰にも言わなかったから」
    「そっか…」
    「ねぇ、ガーデンの一番高いとこ知ってる?」
    肩を落としたゼルに、セルフィが声を掛けた。
    「うち、バラムガーデンに来たばっかの頃に冒険してん。そんで、一番高いとこ見つけたんよ!」
    ゼルが勢いよくセルフィの方に顔を向けた。
    「3Fの非常階段を抜けると、部屋の入り口があってな、その先の部屋に一番高いとこ登る梯子があるで!」
    セルフィが先ほどと同じような自慢げな顔でえっへんと胸を張った。
    「行ってみたら?」
    それを聞いたキスティスも、もうサイファーはそこにいると確信しているのであろう、肩肘を付いた手に顔を乗せながらゼルに微笑みかける。
    先ほどまで静かに聞き入っていたリノアも、うんうんと頷いている。
    「俺、行くよ」
    ゼルはそう言って、ガタリと椅子の音を立てて立ち上がった。
    パタパタと音を立てて食堂を走り去るゼルを見て、女性達は顔を見合わせて、微笑みあった。


    ■■■


    セルフィに教わったとおり、3Fまで上がり、非常階段を上って部屋の入り口へたどり着く。こんなところに部屋があるなんてちっとも知らなかった。
    以前ガーデンの地下に潜ったときも長年いた母校にこんなところがと驚いたものだが、まだまだ自分の知らないことは多いのだと実感する。
    部屋のドアを開けると、そこは物置のようで古い教材などが棚に置かれていた。
    その奥へと進んでいくと、確かに壁に梯子が掛かっている。
    その梯子を辿って上を見上げると、天井に外に出るための入り口が見える。
    ドキドキしながら、ゆっくりとその梯子を登った。
    入り口を開けると、屋根の上に出る。
    ガーデンの天辺の、尖った辺りだ。
    辺りは凄い風で、こんなところにサイファがほんとにいるのかと左右を見回す。
    と、屋根の縁に座り込む白い背中を見つけた。
    ゼルは風を受けながらその見覚えのある背中へと歩を進める。
    サイファーはゼルが近づく音に気付いて舌打ちをした。
    だがそんなことは気にもとめずゼルはサイファーの隣へと腰掛ける。
    打ち付ける風の強さとその寒さに自然と体が震える。
    と、途端に肩からなにかでくるまれた。
    驚いてサイファーを見ると、白いコートの半分で包まれ、腰を抱き寄せられた。
    サイファーの体温がじんわりと伝わってくる。
    ほんのりとサイファーの匂いもして、ゼルはたまらなくなる。
    サイファーにすり寄って暖を取っていると、近くで声が聞こえた。

    「ここはセントラとは風が違う」

    正面を向いたまま、サイファーがぽつりとそう言った。
    腰に回った手はそのままな所を見るとまだ甘えさせてはくれるらしい。

    「なぁ、なんで高いとこ登るんだ?」

    調子に乗って気になっていたことを聞いてみる。
    暫く無言だったサイファーの顔が、急にゼルに近づいてきた。
    キスされたのだ。
    口を割って舌を絡めて、寒さに震えるゼルを味わう。
    合間に呼吸をする度に白い息が漏れる。
    幾ばくかの後、ちゅっと塗れた音を残して、唇が離れた。
    ゼルは答えが分からずにサイファーを見つめる。

    その視線に、肩頬をあげて笑うと、サイファーは再び正面を向いてしまう。

    「テッペンの景色が見たかったんだ」

    ゼルはハッとする。
    子供の頃の夢は魔女の騎士で、ガーデンにはいってからはずっとトップの実力を誇ってきた。
    ガルバディア軍を指揮したことだってある。
    形だけとはいえ魔女に仕え夢も果たした。

    いつだって上を向いて走り続けている。
    サイファーの野望はいつも大きい。
    常に望むのは高みなのだ。

    ゼルは急に辛くなって下を向いた。
    彼のテッペンには自分は登れない。

    だがそんなことはおかまいなしに、サイファーは続けた。

    「色々やってみたけどよ、結局てめぇの側が一番いい」
    さっき確信したと言って、普段のサイファーとはおもえないすっきりした顔で微笑んだ。

    ゼルは目を見張って、勢いよくサイファーを見つめる。
    すると一つニヤリといつもの風に笑って、再び口づけられた。
    温かい。
    馴染んだ舌に、リズムに溶かされる。

    ゆっくりと口を離して呼吸を整える。
    「俺さ、あんたの誕生日を祝いに来たんだ」
    目を細めて、サイファーが見つめている。
    「でもさ、俺の方がプレゼント貰っちまった気分だぜ」
    そう言ってサイファーへと体を預けた。
    それで気付いたのだろう。
    「冷えてきたな」と言って、ゼルの足の下にも手を添えだした。
    腰と足に回された手に訳が分からんという顔をすると、サイファーが口を開いた。

    「俺もプレゼント貰うとするか。精々楽しませろよ」

    そう言って、ゼルを抱き上げたのだ。
    そうして歩き出したサイファーに、屋根の上だけだからな!はしご下りたら歩くからな!と声を上げながら、居心地のいいその腕の中を堪能する。

    サイファーだけじゃない。ゼルも結局この男の側がたまらなく幸せなのだと理解する。
    生まれた日にそれを確信したと言い切ったこの男になら、プレゼントをやってもいいと思いながらゼルはあんまり抵抗しないでやろうと決めたのだった。


    終わり




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