インベントリ・リサーチ研究日誌

  • オオクロバエ1齢幼虫標本作成(2010,Oct.,17)

    【オオクロバエ雄成虫(千葉県習志野市にて採集)】

     未明、ミヤマクロバエに遅れて産卵したオオクロバエの1齢幼虫がほぼ最大サイズに達したので水中で窒息させてカールス氏液固定へというコースの個体10、熱湯固定後、さらにカールス氏液固定というコースの個体10標本作成。中には2齢幼虫の前気門が1齢幼虫のクチクラを通して透けて見える個体も出てきているので、タイムリミットぎりぎりだった。水中窒息させている個体は、朝になって固定前に透過光で気管系の画像を撮影。

    【オオクロバエ1齢幼虫(気管系を落射照明+透過照明で撮影)】

     ハエの幼虫の体は見かけ上、頭部1節、胸部3節、腹部8節の合計12節から成っている。このうち最後の第12節(第8腹節)に大きな1対の後方気門が開き、第2節(前胸節)に掌状の薄板の姿をした1対の前方気門が開く。そして後方気門と前方気門は非常に太い1対の気管で連結されている。但し、ここに図示した1齢幼虫ではまだ前方気門は存在しておらず、将来前方気門に終わるであろう2本の太い気管はすっと細くなって終わっている。

     双翅目の中でハエ(短角亜目環縫群)というグループが分岐した時の共通の祖先が持っていたであろう形質は、咽頭部の微生物をろ過して摂食するフィルター構造である。つまり彼らは湿ってじめじめした微生物の繁殖している場所に潜っていき、微生物密度の高い場所にアクセスしなければならない。特に微生物密度の高い場所、というのは有機物が分解しつつある場などに形成された粘性の高いバイオフィルムであろう。こういう場に体を突っ込んで生活するのに適した構造を持っているのがハエの幼虫、即ち『蛆虫』である。

     蛆虫はスラリー状のバイオフィルム、或いは嫌気性のバクテリアのうようよとした半液体状の腐敗物に体の大半を埋没させ、そこにいるバクテリアなどを濾過摂食しながら切断されたような平面状の尾部だけを空気中にさらして生活しているものが多い。ガス交換はこの平面上に開いた後方気門のスリットからだけ行われる。前方気門の役割に関してはある仮説を持っているが、ここでは秘す。

    【オオクロバエ1齢幼虫(気管系を落射照明で撮影)】


    【オオクロバエ1齢幼虫尾部拡大(気管系を落射照明で撮影)】


     上の画像では後部気門から伸びる太い気管と、そこから斜め下前方に分岐していく細い気管がはっきりと観察できる
Copyright © Textt / GreenSpace