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  • DAISYコンソーシアム会長 @hkawa33 河村宏 さんのツイートまとめ 2011/03/03

    28日の浦河町地域防災フォーラムでのべてるの発表は、随所に、デイジーを見て、デイジーで、が飛び出した。グループホームごとに少しずつ避難経路と実写のデジカメ写真で作るマルチメディアの避難マニュアルを、べてるの人々はデイジーと親しみをこめて呼ぶ。
    集中や理解に苦労が多いべてるの人々が、見て、理解して、正確に行動するための避難マニュアルの役割は重要だが、製作者への注文には難しいものが多い。長文はだめ、誤解の無い肯定文だけを使い、必ず図解や写真を入れて、正確な避難シナリオを、7分以内で見せる。

    浦河町内十数か所の共同住居や活動拠点それぞれに必要な正確な津波避難経路情報は、避難シナリオと写真と短文の画面構成が少しずつ異なる。冬の避難の留意点は夏のそれとは異なる。文の読み上げは聞きなれた仲間のしっかり安心できる声が良い。
    べてるの津波避難マニュアルは、避難訓練の時にデジカメ写真班を用意して実施し、訓練の際のスナップ写真でマニュアル中の写真を置き換えて完成する。次からは、グループホームから正確に避難する自分たちの姿を見ながら避難マニュアルで復習ができる。

    地震と津波はなぜ起きるのかから始まり、津波避難の必要性、自分たちの家で予想される危険、4分以内に標高十メートル以上に到達して安全確保という避難目標、一次避難場所と避難施設への経路、避難の留意点までを集中が持続する7分程度で示すには、マルチメディアが必要だ。
    紙に印刷した避難マニュアルには食いつかない人も、自分や仲間の写真には敏感に反応する。聞きなれた声が伴っていればなおさらだ。お客さんと親しみをこめて呼ばれる幻聴がある人の注意を喚起し、マニュアルの終わりまで集中させることにべてるのマニュアルは成功している。

    べてるはDAISYのコンテンツを自分たちで作ることに挑戦し、最初にテンプレートになるマニュアルの提供を受け、それに編集を加えて応用する技術の移転に成功した。編集には操作が簡単なDolphin Publisherを用い、やなせたかしさんの津波マンの絵も使う。
    やなせさんの防災キャラクターは高知県庁を介して防災マニュアルに利用する許可が得られる。「4分十メートル」の避難行動目標は過去の記録や中央防災会議の資料を勉強した上で自分たちで決めたものだが、町や自治会と一緒に避難訓練する時にも皆に受けいれられている。

    重い精神障害で苦労している人は、家庭で、職場で、地域で、孤立しがちだ。心配と不安は症状を更に悪化させるが、災害時の不安を開示できないで一層悶々とすることが心配される。苦労を周囲に開示することを基本とするべてるの防災の取組は、この問題の解決の糸口を示す。
    べてるが「4分以内に標高十メートル以上に避難」という目標を決める前は、町内の多くの人は丘の上のスポーツセンターに車で避難することを考えていた。べてるは学習会を重ねて「4分十メートル」で大丈夫という結論を出し、DAISY版マニュアルにそれを織り込んだ。

    浦河町の防災活動にべてるのメンバーが本格的に参加したのは2004年以来だが、今では町内の合同防災会議の主要なメンバーになっている。その理由は、夏冬・昼夜にべてるの活動拠点と共同住居で実施する津波避難訓練の実績だ。更に自立支援調査研究費が皆の背中を押した。
    障害者放送協議会は、2回にわたって障害者自身の防災への取り組みに関する講演会にべてるの家の代表を招いた。全国の自治体の防災担当者、保健所、社会福祉協議会、ボランティアセンター等に、べてるの地域と結んだ防災の取り組みはもっと知られるべきだと思う。

    津波避難マニュアルとしてのデイジーは浦河べてるの家のデイジーグループの自家薬籠中の物になっているが、DAISYの側もべてるによる活用から多くを学ばせてもらっている。その最も重要なものは、集中や認知に困難がある人への分かりやすい情報提示のノウハウだ。

    DAISYコンソーシアムのWebにあるUrakawa Projectは、SMIL3.0を通じてEPUB3につながる。このプロジェクトは浦河町にちなんだもので、べてるのメンバーを含む浦河のすべての住民と旅行者の安全確保をユースケース開発の柱にしている。
    べてると共に進めてきたアクセシブルで分かりやすい津波避難マニュアルの開発は、今も続いている。私の浦河町訪問も60回をはるかに超えた。動画も含むことが可能な改定中のDAISY4=EPUB3がべてるのマニュアルを更に発展させると確信する。
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