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  • 角川グループホールディングス角川歴彦会長の講演 @電子書籍・コミックサミット in 秋葉原

    電子書籍・コミックサミット in 秋葉原
    reported by @tsuda /津田大介

    キーワードは3つ

    出版社はネット化する
    出版社はソーシャル化する
    電子書籍が大きな売り上げを達成していくには編集者の力が必要

    改めて今までの時代を総括すると、かつて1980年代までは知識社会だった。その中核として出版産業があった。80年代、モノから知識へ、量から質へという変化があり、特許や著作権など知識が富を生み出していた。製造から知的創造に変化する中、知識人が登場し、マスメディアが大きくなった。
    その知識社会、マスメディアが新たなフェイズに入っていることを象徴する2つの事件が起きた。

    1つはYouTubeへの尖閣諸島問題の動画流出。
    もう1つは小沢一郎のニコニコ動画の生会見。
    マスメディアのもっていた影響力が変わりつつある。

    知識社会は2010年代に入りソーシャル社会へと変貌しつつある。
    知識から情報へ、量だけでなく質も増え、情報が富を生み出していることが起きる。情報発信をする大衆の数の力が増し、大衆がコンテンツを創造していく。
    それを可能にしたのがFacebook、ツイッタ-、YouTube

    我々は情報革命のまっただ中にいる。
    mixiやgree、モバゲータウン、Web2.0の時代は100万人集めてビジネスをするということだったが、ソーシャル時代は桁が変わって2000万人規模で商売を行っている

    ソニーが『ソーシャルネットワーク』というFacebookの映画を作った。
    大学で恋人に振られた青年が自分の恋人は大学の中でどれだけのランクにいたのか調べるサイトを作ったそれがFacebookの始まりだといった実話をベースに展開している。
    面白いのでぜひ見てもらいたい

    角川グループに魔法のiらんどがある。
    魔法のiらんどは99年にスタートして、若年層の圧倒的利用者を獲得している。月間PVは35億PV。男女比は女性が88.7%と圧倒的。60万人の中高生の作家がケータイ小説を投稿している

    ケータイ作家はプロとは言えない。それらはソーシャルコンテンツとも言えるものだろう。
    それと対称的な存在として、プロが創ったプレミアコンテンツがあると考えている。
    しかし、ソーシャルコンテンツの中からプレミアコンテンツに昇華するものがあるかもしれない。
    それができるのは編集者

    次世代の出版人、編集者に求められているものとは、編集力の強化。
    ソーシャル化が進み、プロとアマチュアの境界が低くなっている。
    ソーシャルコンテンツを、プレミアコンテンツに昇華させることこそが『編集力』と言えるだろう

    ソーシャルコンテンツは新しく出てきた言葉なのか? そうではない。
    代表的な存在はコミケ。アマチュアの同人誌のクリエイターが集まっているが、この中から優秀な才能を持った漫画家や小説家が生まれている。
    これもソーシャルコンテンツだ」

    私は芥川賞も直木賞もソーシャルコンテンツからプレミアコンテンツを創る作業であると思っている。ただし、それはあくまでアナログ的な手段。
    それが今はソーシャルメディアを通じてデジタル化している時代と言える

    そして時代は電子書籍の時代になった。
    電子書籍はKindle的な専用機とiPadのような多機能機と分けて考えなければならない。ジョブズもiPadが電子書籍リーダーとして捉えられがちなことに不満を持っていると聞いた

    iPadは本も映画も音楽も楽しめるという意味でバンドル機という表現をしたい。そしてネットにつながるiPadはクラウドサーバーに置かれたさまざまなデジタルコンテンツを楽しめる機会でもある

    『時を書ける少女』は元々小説だが、アニメ映画、コミック、ビジュアルブック、実写映画、音楽と多メディア展開している。
    iPadならばそれを1台ですべて楽しむことが可能だ

    iPadはもう1つ、バンドルを超えてコンテンツが融合していくという現象をもたらすのではないか。
    媒体の垣根を越えて小説でも映画でもない新しいコンテンツを生み出すのではないか

    この前新幹線に乗っているとき気づいたが、東京地区はデジタルニュースを新聞社が流していたが、名古屋はテレビ局のニュースだった。
    新聞社もテレビ局もデジタルの文字ニュースという点では同じコンテンツを作っていた。
    こうしたコンテンツの融合があらゆるジャンルで加速していくのではないか

    今回のサミットで神戸工科大学が作った漫画をiPadで楽しむ新しいインタラクティブコンテンツが面白い。
    劇画というのはストップモーションの芸術だが、FLASHのように動き出すような表現と組み合わせると新しいコンテンツになる。漫画の中にアニメが入っているようなもの

    改めて申し上げるが、出版社はネット化し、ソーシャル化する。
    その際、プレミアコンテンツを作り出していくときに編集者の力が必要になるし、彼らには編集著作権、隣接権的なものを与えるべきではないかと私は考えている

    電子書籍にはまだビジネスモデルができていない。それなのに作家と出版社の印税率が議論されている。それはまだ時期尚早だと思う。
    iPadなどに対応した新しい融合コンテンツも生まれていない。融合コンテンツは著作権をどう処理するのか。まだまだ課題は多い

    角川が始まる電子書籍プラットフォーム『Book☆Walker』の話。
    私は電子書籍プラットフォームは無限にあっていいと思う。文化は多様であるべき。
    音楽の世界はiTSやAmazon MP3のように独占的なプラットフォームがいくつかあるが、書籍はもっと多様でいいと思う

    なぜBook☆Walkerを考えたのか。
    電子書籍1つ1つは宇宙に散らばっている星のようなもの。電子書籍市場が大きくなればなるほど、その輝きは増す。ユーザーは知の宇宙、星は見上げるけれど、広い知の宇宙でたどり着くのは困難

    電子書籍事業は、出版社がユーザーに見て下さいということをプッシュしないと商売にならない。
    従来の書店はプル型。お客さんが自ら店舗に来てくれて買うから。
    しかし、電子書籍の世界ではサイトにアクセスしてもらうだけではすぐ購入にはつながらない。そこに電子書籍事業の難しさがある

    電子書籍というバラバラの星を束ねることで星雲を作る。
    プラットフォームを通すことでその星雲に容易にアクセスすることができる

    Book☆Walkerはニコニコ動画と提携した。
    それは彼らは1900万人のソーシャル会員、100万人の有料会員を持っているからそこにBook☆Walkerのコンテンツを提供することで、プラットフォーム展開を容易にすることを考えた

    電子書籍市場は、一足早く変化の波が訪れた音楽業界から学ぶことが多い。
    それは、Exitばかり増えても利益は上がらない。拡散してしまっては還元もできない。
    Exitは1つでもビジネスモデルが確立していれば利益は大きいということの2つ

    重要なのは
    『コンテンツを大切にすること』
    『コンテンツの付加価値を高めること』
    という2つ。
    これを音楽業界から出版業界は学ばなければならない。
    我々は出版社自らプラットフォームを作ることでそれを実現していきたいと思っている

    出版社は著作隣接権を獲得する運動を行うべき。
    私は08年のFIPPの大会で雑誌のプラットフォーム構築を呼びかけたが、今回のサミットではみんなが協力して出版社、出版者が隣接権を獲得することを呼びかけたい。
    業界を挙げて文化庁に働きかけよう

    出版者の義務というのは『出版行為』。
    1つは著作者から原稿を受け取ったデータに対し、適切な修正加工を施し、必要に応じて他のデータと組み合わせて校了データを制作する行為。これはプル型の出版。
    もう1つは完成したデータをユーザーに届けるプッシュ型出版。電子書籍はプッシュ型ビジネス

    以上で角川会長の講演は終了
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