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  • 電子書籍ビジネス戦国時代

    これからの電子書籍プラットフォーム戦国時代、気になるのは
    1)電子書籍端末=ブックリーダ
    2)フォーマット/ビューア
    3)プラットフォーム連合の面子
    などです。

    全てを書くと長くなるので最近影の薄いドットブックはどうなのか?
    という視点でメモを書いてみます。

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    電子書籍フィーバーの前は、文芸作品の電子書籍化はリフローのXMDFかドットブック。
    主にPC向けでしたが、十年ほどやっても電子書籍の市場はさほど伸びす、その間にケータイ書籍市場が爆発的に活性化したが中心はコミック。

    今の電子書籍ブームは、AmazonのKindle、アップルのiPhone/iPad
    など新しい携帯型の読書端末がコンテンツ流通とセットでビジネスモデルを確立し、日本上陸じゃないかと慌ててからの黒船騒動。

    日本国内でのフォーマットの乱立は好ましくないとこの春から政府の三省デジ懇で中間フォーマットを策定することが提案され、XMDFとドットブックがその中核に置かれ、検討が進んできた。

    一方、国際標準のフォーマットとしてEPUBをアップルが採用したことから、にわかに注目が集まったが、日本語対応が不完全で商業コンテンツとして使えない。またその日本語対応がいつになるか不明確というのが夏ごろまでの状況。

    この今年前半の状況をベースに、企業間の合従連衡でプラットフォームの乱立となり、メーカーは思い込みで走り始めてしまったというわけです。

    シャープはXMDFで勝負しようとGALAPAGOASを出すことになったのですが、これがかなり不評。
    なにしろDRMガチガチでせっかくのアンドロイドOSなのに拡張性がない囲い込み端末。
    キャリアと組めずにTSUTAYAのCCCと提携。

    KDDIが先日発表したXMDFをベースにした電子ペーパ端末もいささかお粗末で、組版禁則処理すら出来ていないサンプル画像を広報用に使っていて失笑を買う。

    東芝と富士通は携帯事業の統合を発表していますが、暫くはそれぞれのブランドでタブレットPCを出すらしい。
    コンテンツ供給は凸版印刷。

    ドコモ/大日本印刷という最強連合は準備が若干遅れ気味だが運用テストをスタートし、来春までに体制を整える。
    アンドロイドOS最新版を搭載し、iPadを真似たサムソンGALAXY Tabだけじゃなく、いろいろ隠し玉が出ることでしょう。

    KDDI、凸版、朝日新聞と組んで事業会社まで設立したソニーの発表はこれから。

    この他に紀伊国屋は独自展開、ヤフーはまだ整備されていないアンドロイド市場を狙っている。

    などなどまことに乱立の言葉が似合う混戦ぶりです。
    ここでは、出版社の影も薄く、また読者への配慮など無きに等しい。

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    これまでの紙の本が電子書籍化されていく流れは確定したのですが、
    その最大のメリットを受けるべきはずの作家や、そして読者は等閑にされ、中間プレイヤーが幻想的な新市場を虎視眈々と狙って動いている状況。

    多分これでは、電子書籍市場は期待したようには立ち上がらないのではないか?
    まだ生まれたばかりとも言える小さな市場を育てるよりも先に、パイの分捕り合戦では一旦失敗に終わる可能性すらある。
    これまでも何度か目にした電子書籍元年騒動がより大規模になっただけかもしれない。

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    さて版元の動きはどうでしょうか?
    年初めに電書協が大手版元で設立され、技術系版元も団体をつくるなど動きが活発でしたが、その後はメディアの全面に出ることは少なくなっています。

    しかし、それはプラットフォーム間の競争が始まる中で、どこかと組むのではなく、どことも組むという八方美人スタイルに方針を切り替えながら、実験的な電子書籍、編集体制、コラボレーションなどさまざまな試みをしたたかに展開していると見た方がいい。

    つまり、iPad 発表直後は、一足対応していたボイジャーのドットブックへ関心が集まり、新規版元もトライ。
    その後、ダイヤモンド社のDReader で「もしドラ」がヒットするや、そちらが話題に。
    中間フォーマットがXMDF中心で動きそうになり、シャープがやる気出してGALAPAGOSを投入。
    日本の標準フォーマットがXMDFで動きそうな気配だが、モリサワも夏にフォント/組版で優れたMCBook ソリューションを出して、文藝春秋/幻冬舎が採用。

    フォーマットはEPUBの動向も絡んで、当分ふらつきそうなので、その間は電書アプリでという考え方をする版元も多いようですね。

    ということでドットブックですが、GALAPAGOSはXMDFですから無理として、他のメーカー端末との関係が気になるところ。具体的にはソニーのReaderです。
    それ以外はAndroidOSの端末ですから、iPhone/iPad
    での理想ビューア/ボイジャービューアのAndroido版を出して、プラットフォームではなく外部決済で対応するのでしょう。

    ボイジャーにはメーカーとの長い煮え湯を飲まされてきた歴史があって、基本的にメーカーに振り回されたくないという思いが強い。

    一方でEPUBへの対応は積極的です。
    米国の第三勢力、ブックサーバ構想に日本で最初に賛同して参加し、NYブックフェアでも東アジアにおけるEPUB陣営として協力することを表明している。

    EPUBの仕様を検討する東アジア作業部会EGLSにもボイジャーからスタッフが参加していますね。
    http://code.google.com/p/epub-revision/wiki/EGLS

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    EPUBへの漢字文化圏対応、現在まさに作業が進行中で予想よりも早く来年5月には確定する動き。
    こうなるとビューア/オーサリングのエディタなども急速に充実するのは確実で、やっと日本語電子書籍も国際標準のフォーマットが使えるようになる。

    但し、今回のEPUB拡張が日本語の組版表現として十分かどうかといえば、そうでもない。
    あえてどうしても譲れない基本的な仕様要求にとどめたので、交渉が早く進んでいるということ。

    拡張されたEPUBでも、現在のドットブック、XMDFで実装されているような日本語組版には及ばないレベルなのです。

    ということは、ドットブックも一日の長を活かして出版社が選ぶ選択肢としては十分に魅力的でしょう。
    ドットブックからEPUBへの変換は難しくはなく、すでに内部的にはツールも試作している気配。
    先ずはドットブックで電子書籍化を進めておいて、将来的にEPUBの日本語対応が進んでから、移行してもよいわけです。

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    大手のプラットフォーム競争は、品揃え競争に突入するのは明らかで、
    10万タイトル以上でスタートし、これがあっという間に20万、30万タイトルと増えていくことになる。

    具体的には、毎週の新刊で数十~数百のタイトルが投入され、それらは瞬く間にTOPページから落ちてアーカイブへ。
    ケータイ書店で起こっていたことが、スマフォ/タブレットで繰り返されると思えばわかり易い。

    版元にとっても、また作家/読者にとってもあまり幸せとは言えない、IT業界的な身も蓋もない競争で、生まれたばかりの電子書籍市場はもみくちゃにされるのではないでしょうか。

    ということで、
    こうした乱戦からちょっと身を引いて、独自の書店流通でやっていくというボイジャーの戦略もあながち無視はできないと思っています。

    以上、長くなったので一旦ここまで。
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